2017 Fiscal Year Research-status Report
「国境の市民化」をめぐるローカルの重層的展開―日伊比較地域アプローチ
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15K17206
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Research Institution | Osaka University of Economics and Law |
Principal Investigator |
鈴木 鉄忠 大阪経済法科大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (20726046)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ボーダースタディーズ / 透過性 / 対話性 / 非常事態 / 日常生活の軍事化 / 社会運動 / 沖縄八重山諸島 / トリエステ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績は、本研究で設定した3つの目的に対応させると、以下のようになる。 1 〈国境画定過程の日本とイタリアの比較〉まずイタリアと日本で開催された国際研究会での発表と議論を通じて、ボーダーが特定の人やモノの移動を許容する程度を意味する「透過性」というキーワードが浮かび上がった。この観点から考えると、イタリアを含めたヨーロッパ連合(EU)域内外ではポスト冷戦以降にボーダーの透過性が高まっていったが、他方で、日本ではポスト冷戦以降に国境画定問題の浮上によりボーダーが閉じる(つまり透過性が低下している)、という知見を得た。また、全体社会―地域社会―日常生活のリンケージを把握するための理論的・方法論的な検討を行い、論文に発表した。 2 〈国境の歴史問題をめぐるローカルの重層的展開〉沖縄八重山と京都丹後半島における軍事基地問題の調査研究、そしてイタリア最東端国境地域および最南端島嶼地域の難民問題の現地調査を実施した。東アジアにおける国家の安全保障とヨーロッパにおける人間の安全保障をめぐる相違が国境地域で顕在化しているが、共通の傾向として「非常事態(例外状態)」を前提とした国家による権力集中が急速に進んでいることがわかった。ここから「平和裏の戦争状態」「日常生活の軍事化」という新たなテーマを得た。 3 〈国境の市民化の可能性〉イタリア精神保健運動の研究とイタリアの社会学者A.メルッチの身体論の検討を通じて、「対話性」というキーワードを得た。これは対面的な状況において、話し手と聞き手の交わす言葉が両者の境界に生じていると同時に、そうした言葉が双方のどちらにも属しているような、対話的な相互作用を意味する。対話性の場への参加とそこでの応答が、社会関係の不可逆的な変化につながる、という新たな仮説を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度までの進捗状況について、日本とイタリアでの現地調査に加えて、国内外の学会や研究会での発表を通じて、研究成果を公表した。本研究で設定した3つの目的に対応させると、以下のようになる。 1 〈国境画定過程の日本とイタリアの比較〉「透過性」への着目によって、イタリアと日本といった国家レベルではなく、地域レベルで比較する概念を得ることができた。これによって日伊の国境地域の特徴に即したかたちで相互検討する可能性が高まった。また、地域社会の総体をとらえるための方法論的な枠組みを設定することができた。 2 〈国境の歴史問題をめぐるローカルの重層的展開〉自衛隊基地配備計画が急速に進行している沖縄八重山では、国政と連動した保守派の地方自治体の行政・議会・市長が閉鎖的なコミュニティを結成していること、他方で、基地配備予定地とされた現地住民や有識者や市民団体のゆるやかなネットワークが形成されていること、これら二つの勢力とのあいだでコンフリクトが発生していることがわかった。そして後者のうごきから前者のうごきを解釈すると、「非常事態(例外事態)」に便乗した国家権力の集中化が日常生活で加速していること、それが日本のみならずイタリアでも見られることがあきらかになった。 3 〈国境の市民化の可能性〉 日本の国境における反基地運動、イタリアの国境における反難民排斥運動をめぐって、身体を介した相互作用の性質を把握するキーワードとして、「対話性」という視点をえることができた。これによって、たとえ利害の不一致や意見の対立に直面したとしても、持続的な信頼関係の構築が可能になる、という見通しを得ることができた。またイタリアにおける「対話性」をめぐって、イタリア精神病院の廃絶と地域精神保健サービス網の構築をめぐる研究成果を図書、翻訳、報告によって発信することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は国内外での口頭発表に力を注いだため、最終年度となる本年度は、これまでの知見を論文や図書にまとめ、国内外で成果報告を行っていく。また補足調査が必要な点は、沖縄八重山およびイタリアにて現地調査を実施する。 1 〈国境画定過程の日本とイタリアの比較〉まずは一昨年度の報告した19世紀から20世紀におけるイタリア東部国境地域における民族問題を論文にまとめる。これに基づき、19世紀から現在に至る日本とイタリアの国境画定過程を通時的に分析し、両国の共通点と相違を分岐点となったいくつかの時点に焦点を据えて比較検討する。 2 〈国境の歴史問題をめぐるローカルの重層的展開〉沖縄八重山における軍事基地配備と地域社会に関する報告を行う。そしてイタリア東部国境における国境封鎖とそれに対する抗議運動に関する調査と分析を論文にまとめる。イタリア南部国境島嶼における難民流入と地域社会の受容に関する報告を行う。これら3つの事例調査に共通する論点として、「非常事態(例外状態)」に抗する国境地域の社会運動・集合行動に関する考察を論文ないし図書にて発表する。 3 〈国境の市民化の可能性〉研究会と学会における報告を通じて、「対話性」に関する理論的考察と事例研究の接合を進める。イタリアの国境地域における多文化共生にむけた市民団体の取り組みを「対話性」の観点から考察し、論文にまとめる。イタリア精神保健における「対話性」については、ホームページや討論会の開催を通じて社会へのフィードバックを行う。
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Causes of Carryover |
当初は単独でのイタリア東部国境への出張を予定していた。滞在予定地だったトリエステでの成果報告を計画していたが、現地の受け入れ機関との日程が調整できなかった。そのためにウェッブ会議というかたちで国際研究会を行った。そのために本年度に予定していた旅費が未使用となった。 上記の理由により、前年度に予定していたトリエステへの出張を今年度に実施し、成果発表と補足調査を実施することにする。前年度に繰り越した旅費に相当する予算を本年度に充てる。
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Research Products
(13 results)