2016 Fiscal Year Research-status Report
障害児者の母親におけるワーク・ロスの実相と社会的支援―労働とケアの両立の困難
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15K17236
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
田中 智子 佛教大学, 社会福祉学部, 准教授 (60413415)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 障害者の母親 / 就労とケアの両立 / アイデンティティ / ケア役割 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、障害児者を育てる母親におけるワーク・ロス(労働機会・費用の喪失)に起因した生活問題の実態と、問題解決に向けた社会的支援のあり方について考察することが目的である。ワーク・ロスの実態については、①労働機会がどのような社会構造のもと剥奪され、その結果どのような生活問題や母親の意識につながるのか、②母親が労働をすることはケア役割ととの両立でどのような点で矛盾を生じさせるのかという2点から考察を行なうことを目的としたものである。 これまでに完了した国内でのインタビュー調査を通じて、日常的で継続的なケアを要する障害児者をケアする母親の就労には、世代に関わらず困難が生じていること(就労そのものが困難である/就労を選択した場合、社会的に要請されるケア役割の遂行が困難であること)、その要因としては、障害児者が利用できるケア資源の有無(ケア資源が母親の就労に適合的な状況であるかどうか)、家族・本人における就労に対する意識や理解、職場の理解など母親の外的要因に左右される状況にあることが明らかになった。また就労状況は、母親の自らのアイデンティティや夫婦間のバーゲニングパワーや家族内の地位などにも影響を及ぼすことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年度は、フルタイム・パートタイム・無職と就労状態が異なる成人期・学齢期・就学前の障害児者をケアする稼働期の母親に対して、労働実態や生活問題、ケア役割の遂行状況についての聞き取り調査を行なった。これにて、本研究にて当初予定していたインタビュー調査はほぼ終了した。 調査結果を通じて、就労(形態)とケアのバランスをいかに取るかという一見すると個人の意思によって決定されると思われる事象が、障害児者を取り巻くケア資源、家族・専門職の母親の就労に対する意識、職場の理解など個人的要因以外の外的な要因によって規定されていることが明らかになった。 また就労そのものが、母親の子育て観や子どもとの関係性に影響を与え、母親自身のケア役割意識やアイデンティティ、夫婦間のバーゲニングパワーや家族内の地位などにも影響を及ぼすことが確認された。 2016年度は、成人期障害者の母親のインタビュー結果について、就労を促進する要因と阻害する要因の考察を行ない、論文としてまとめ公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画としては、今年度は成人期の母親のインタビュー調査結果をもとに考察を行なったが、障害児者のケア資源の整備状況や母親の就労に対する社会的認識の異なる学齢期・乳幼児期との比較を通じて、母親の就労を促進/阻害する要因がどのように変容してきたのかを考察したいと考えている。また就労することが、母親のアイデンティティや子育て観、夫婦間のバーゲニングパワーや家族内の地位に及ぼす影響について各世代における考察を行ないたいと思う。 また、これまでに障害児者の母親の就労に対する意識や制度の整備状況の異なるフィンランドにおいても数例のインタビュー調査を実施してきた。その結果との比較検討を通じて、日本におけるワークロスに関する総合的な考察を試みたいと考えている。
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Causes of Carryover |
前年度、フィンランドでの実施調査にかかる費用の見積もりが高くなり、前倒しでの支給を申請したが、実際には宿泊費や通訳にかかる費用を抑えることができたため、当初予定していた金額には至らなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、インタビュー調査の成果を学会や研究での発表や論文という形で公表したいと考えている。それらに必要な交通費や資料収集、書籍の購入にかかる費用に充てたいと考えている。
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