2016 Fiscal Year Research-status Report
自己行為の空間的拡張の利用:アバターを用いたやり忘れを防ぐ方法の検討
Project/Area Number |
15K17330
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
杉森 絵里子 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (70709584)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 自己主体感 / 実演効果 / アバター / 統合失調症パーソナリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
どういった条件で,モニタ上のアバターを「自己」と判断しやすいのかについて検討するため,2つの実験を行った。 実験1では,モニタ上に「自己アバター」か「他者アバター」を登場させ,それぞれに複数個の行為文を実行させた。「自己アバター」の行為は,実験参加者がキー押しすることで実行するようにし,「他者アバター」の行為は,他者アバターが自発的に行為を実行するところを観察する状況であった。その結果,「自己アバター」の行為は「他者アバター」の行為と比較して再生率が高く,実演効果(ヒトは行為を実行した場合,その行為に対する記憶成績が高くなるという効果)が,モニタ上のアバターにも当てはまることが明らかになった。このことは,モニタ上の「自己アバター」の行為に対して,実験参加者は「自己」を感じており,実際はキー押ししかしていないにも関わらず,「自己アバター」の実行した行為を「自分自身が行った行為」としてとらえていることを示唆するものである。 実験2では「自己アバター」のみを登場させ,キー押しと行為実行のタイミングが合致する条件と,遅延が生じる条件を設定した。その結果,キー押しと「自己アバター」の行為実行に遅延が生じた場合,タイミングが合致した場合と比較して,再生成績が下がった。つまり,「自分自身が行った行為」としてアバターの行為をとらえるためには,自身の行ったキー押しという行為と,そこから得られるであろうアバターの行為実行という結果とのタイミングが合致することが必要であることが明らかになった。また,質問紙を用いて統合失調症パーソナリティのスコアを算出し,そのスコアと再生成績の関係について検討した結果,統合失調症パーソナリティスコアが高くなればなるほど,タイミングが合致していない際にも,「自己アバター」が行った行為に対しては,「自分自身が行った行為」と感じやすいことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
どのような条件において,また,どのようなパーソナリティを持つ人間が,PCモニタ上の「自己アバター」の自己を投影できるのかについて検討できた。「自分自身が行った行為」と感じることで,その行為に対する記憶成績が上がるという事実から,たとえ実行したとしても「やったか否かがわからなくなる行為」は,「自分自身が行った行為」と感じていないからだという可能性が示唆された。これらの結果は,最終年度で,アバターを用いたし忘れをふせぐ方法を見つける手がかりとなると考える。 また実験と並行して,「やったか否かがわからなくなる行為」に関する先行研究のレビューを行っており,現在,先行研究で用いられてきた実験パラダイムを整理し,それぞれの弱点や限界を指摘することができた。このレビューは最終年度に,新しいパラダイムを構築する上で有意義であったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは,行った実験2つをまとめて国際誌に投稿すると同時に,6月に行われる認知心理学会において口頭発表を行う。 次に,「やったか否かがわからなくなる行為」に関する研究における新しいパラダイムを構築し,現実世界においても,VR環境においてもそのパラダイムが,有用であることを確認する。 さらに,そのパラダイムを用いて,「やったか否かがわからなくなる」エラー要因について検討し,そのエラー要因を補完することができるようなトレーニング方法を編み出し,実際にそれが有用か否かを検討する。
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Causes of Carryover |
今回は,前年度の繰越金を用いて,VR装置を購入したり,実験プログラム作成や,実験を遂行するため,比較的多額の出費を行ったが,10万円弱,次年度に繰り越すこととなった。この10万円弱はちょうど国際誌に投稿する際の英語校閲に必要な金額であり,今年度論文を仕上げることができなかったためだと考えられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
夏までに論文執筆を終え,投稿するために英文校閲に使用する予定である。
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