2016 Fiscal Year Research-status Report
教育政策分野における実証的学知と社会・実務との相互作用に関する総合的研究
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15K17336
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
橋野 晶寛 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (60611184)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 教育政策 / エビデンス / 政策過程 / 政策研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、政策研究と社会・実務の関係論の理論的考察、研究―社会間関係における教育政策分野の特質に関する考察を行い、その成果として3篇の研究論文を発表した。それぞれの内容は以下の通りである。 まず、第1に、『日本教育行政学会年報』掲載論文では、「エビデンスに基づいた政策」と教育財政に関して、アメリカにおける教育政策研究と政治・司法との関係史をふまえた論点として、脆弱なエビデンスに基づく英エビデンスの政治化、統計的手法の普及によるその誤用の影響の拡散、研究者と実務家の間の共有知識の不在、分析対象の拡大を指摘した上で、現代の日本の教育財政をめぐる政策・政治に投影した際の今後の課題を考察した。 第2に、『教育学研究』掲載論文では、教育経済学によるエビデンスと教育政策研究の接点に関して、アメリカにおける1990年代以降の教育経済学における実証研究の動向、教育政策におけるレリヴァンスに焦点をあてて考察を行った。特に、教育経済学研究における理論モデルの必要性・含意、費用便益分析の意義、分析対象の拡大がもたらす帰結という論点を取り上げ、教育政策研究者・実務家が教育経済学によるエビデンスに如何に向き合うべきかという方向性について考察した。 第3に、学内紀要掲載論文では、統計的分析ツールの開発・適用を扱った。近年の教育政策に関する実証分析では、多くのヴァリエーションを持つ回帰分析、各種因果的推論の手法、リサンプリング、項目反応理論など、初学者・実務家による理解・アクセスが難しい手法が広く用いられており、政策研究の知見の理解や実証分析自体へのコミットメントが困難となりつつある。そこでそうした手法を搭載し、初学者・実務家に扱いやすい分析ツールを作成するとともに、その研究―社会間のコミュニケーション促進の意義を論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
28年度は、1)研究と社会の関係論の理論的考察・教育政策分野の特質に関する考察、2)アメリカ教育行政研究創生期における研究―社会間関係の考察、3)教育政策・学校評価における付加価値モデルの技術的・政治的意義の検討、を計画していた。 1)に関しては、教育行財政研究におけるエビデンスと政策・行政との関係の原理的考察、教育政策研究から見た教育経済学のエビデンスの意義、統計的分析ツールの開発およびその研究―社会関係における意義、について学会誌および紀要に3篇の研究論文を発表した。 2)については、スタンフォード大学図書館で文献資料調査を行い、資料収集を行った。アメリカ教育行政・経営研究の黎明期における代表的研究者であるE. Cubberleyに関するアーカイブ資料の調査から、スタンフォード大学における教育学部の創設とその運営、教育行政研究における統計的手法の導入、教育専門職の基礎付けとしての科学的手法の導入の契機に関わる情報を得た。現在、その史資料を基にアメリカ教育行政研究における政策研究と社会との関係の創生とその内在的問題に関する論文を執筆中である。 3)については、教育統計学及び計量経済学における付加価値モデルの技術的論点に関する論点整理を行った。この点についても論文執筆の途上にあり、29年度中に研究成果を発表予定である。 以上を総合して、当初の計画に照らして良好な進捗状況にあると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の作業課題は以下の3点である。まず第1に、28年度に収集したCubberley関係の資料分析およびその成果発表が挙げられる。スタンフォード大学図書館を再訪して追加的にアーカイブの資料調査を行うと同時に、20世紀初等から20世紀半ばまでのアメリカ教育行財政研究における実証的政策研究と社会の関係史を研究論文と纏める。また1960年代半ば以降の専門ジャーナルの叢生以降の、教育政策・行政研究における統計的手法の導入に関する科学史的視点からの分析を試みる。 第2は、評価手法としての付加価値モデルをめぐる教育政治の考察・分析である。28年度は付加価値モデルの技術的側面の検討を行ったが、29年度は、教員評価の論争の背景にあるアカウンタビリティをめぐる実務家間の利害対立、その対立から教育政策・統計学関連研究者へのフィードバック・その後の付加価値モデルの技術的展開、という2つの流れを追うとともに、実証研究の知見と政策評価の技術がアカウンタビリティと専門性の現代的相克に如何なる影響を与えたかという点について明らかにする。この付加価値モデルに関してカリフォルニア州を事例として、渡航期間を長くとることで史資料収集作業を円滑に進めたいと考えている。 第3は、「適切性」をめぐるアメリカの教育財政訴訟における実証的政策研究の政治・司法過程への寄与に関する考察・分析である。今年度は基礎的作業としてテキサス州における訴訟のプロセストレースのための資料収集、および原告・被告の夫々で援用されたエビデンスの検討を試みる。
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Causes of Carryover |
28年度の計画として、アメリカ教育行政・経営学創始期(1910~30年代)における教育政策と教育行政学の関係に関する史料、カリフォルニア州の付加価値モデルによる学校評価に関する行政文書収集を行う予定であった。そのために、スタンフォード大学図書館他での2回の文献調査のために旅費(交通費・宿泊費)の支出を予定していた。28年9月および29年3月に調査を行うこととしていたが、後者に関しては、学内委員会業務のため、当月中に出張日程を確保することが難しくなったため、調査およびそのための旅費を翌年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年3月に行う予定であったアメリカ(スタンフォード大学図書館)での文献調査を、29年9月に行う予定である。またそのための旅費(往復交通費と宿泊費)として繰り越し分を含めた250,000円をあてる。また、29年度分の研究費については、アメリカ教育政策・財政関係文献購入費200,000円、国内学会における成果発表のための旅費100,000円、アメリカにおける文献調査のための旅費(2回目)250,000円、資料整理などの謝金50,000円を支出する予定である。
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Research Products
(3 results)