2017 Fiscal Year Research-status Report
教育政策分野における実証的学知と社会・実務との相互作用に関する総合的研究
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15K17336
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
橋野 晶寛 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (60611184)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | エビデンス / 教育行政研究 / 政策過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、平成29年10月の日本教育行政学会(於日本女子大学)において1件の学会発表(タイトル「教育行政研究における測定・統計学導入の史的考察-E. P. Cubberleyの構想と研究-社会間関係-」)を行った。これは前年度にスタンフォード大学図書館を訪れて行ったEllwood P. Cubberleyのアーカイブ文書の史資料収集作業をふまえたものであり、調査で得られた情報をもとに、20世紀初頭の教育行政研究における測定・統計学導入の社会史・科学史的考察について行った。特に以下の2点を明らかにした。 第1は、20世紀初頭に学問分野としての教育行政研究発足時の学術的・実務的文脈である。文献調査を中心に、Cubberleyら教育行政研究の創始者が双方の文脈におけるプレゼンス確立(=教育行政の非政治化)のために、心理学及び統計学に接近した背景を明らかにした。また、1900年代以降の教育学部・学科内における、1) 教育行政専門職養成を念頭に置いた量的手法に関する専門教育、2) 教育統計学・調査・測定に関する専任教員採用、3) 学校調査の拡大の経過に関して、Cubberley文書他のスタンフォード大学所蔵資料を基に1900~30年代におけるスタンフォード大学教育学科・教育学部内の状況を詳らかにした。 第2は、教育行政研究の「科学化運動」の限界と帰結である。当研究と実務の分離、統計学自体の技術的発展、有力大学―地方教育行政のネットワークの衰退、教育行政専門職輩出における有力大学の寡占状態の終焉、といった複合的な要素によって、初の教育行政研究と教育心理学・統計学の蜜月関係が時間の経過とともに失われていった過程を描出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、前年度夏にスタンフォード大学図書館を訪れ、得られたEllwood P. Cubberleyのアーカイブ文書の史資料をもとに分析作業を行った。多くの収穫が得られ、10月の日本教育行政学会において一定のまとまった成果を発表することができた。発表で触れられなかった史料についても、整理・解釈を進め、他日追加的な成果発表、論文化を行うことが見込まれる。 また、こうした20世紀初頭の教育行政研究における統計学導入の起源の史的考察と並行して、近年のアメリカの学校評価・教員評価実務における統計学的手法導入の事例である付加価値モデル(Value-Added Model)の検討を進めた。特に教育統計学および計量経済学の双方の文脈における方法論および適用事例に関する文献サーヴェイを行い、その技術的論点および実質的含意について吟味を行った。平成29年度末から、その成果について論文化の作業を進めているところである。 以上をふまえると、平成29年度の作業は、概ね当初の予定通りに進捗したと判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度主なものとして次の4点の作業を予定している。第1は、前年度より作業を進めている学校・教員評価実務における付加価値モデルの方法論的検討の継続である。特に変量効果モデルの特殊形であるEVAASモデル及び固定効果モデルにおける個体効果のバイアス、異質性、関数形依存などの問題に焦点を当てる。既に論点整理は大方済んでおり、速やかにそれらの成果を論文化する予定である。また、同じくその付加価値モデルの学校評価・教員評価の研究―社会間関係についても触れ、そのために付加価値モデル導入の政治過程の事実関係を明らかにするために、州・都市の事例選択をふまえて文献調査を行い、学会発表および論文発表を行う。 第2は、教育財政における研究-社会間関係の分析である。教育経費財源保障をめぐって引き起こされた教育財政訴訟を扱い、実証的政策研究(その知見と費用関数アプローチなどの経費推計の統計学的技術)が学区・利益団体にどのように受容され、多元主義的な教育政治に関係したかを明らかにする。 第3は、日本国内の地方教育行政レベルにおけるデータ・エビデンス活用、実証研究者との交流関係に関する実態調査の実施である。都道府県・市町村教育委員会に対する質問紙調査を行い、都道府県・市町村の行政データと組み合わせて、活用・交流関係の態様の規定要因について、統計的分析を行う。他の作業の日程を勘案するとデータ分析まで完遂するのは難しい可能性があるが、その場合は調査の中間報告として学会発表を行い、詳細な分析の報告は次年度に行いたいと考えている。 第4は、これまでの4年間の研究課題の総括である。これまで行ってきた理論的研究、アメリカ教育政策史における事例分析、日本における調査データの分析をふまえて、教育政策分野における実証的学知と社会・実務との相互作用の全体像を明らかにする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が発生したのは主に次の2点による。第1は、平成30年4月に文献調査とAmerican Educational Research Association の年次大会に参加を併せて行い、またそのための交通費・宿泊費を平成30年度使用額として確保するためである。そのための旅費(アメリカ往復交通費と宿泊費)として繰り越し分を含む400,000円をあてる。第2は、平成30年度の統計解析作業に用いる統計分析ソフトの購入にあたり、最新バージョンのリリースを待って予算執行を行うためである。そのための物品購入費として繰り越した分を含む300,000円をあてる。 また、30年度分の研究費については、アメリカ教育政策・財政関係文献購入費200,000円、国内学会における成果発表のための旅費100,000円、質問紙調査のための印刷費・郵送費に300,000円、データ入力謝金に100,000円を支出する予定である。
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Research Products
(2 results)