2015 Fiscal Year Research-status Report
青少年の日常性を出発点とした異文化間教育―多文化社会ドイツの現実に学ぶ―
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15K17371
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
伊藤 亜希子 福岡大学, 人文学部, 講師 (70570266)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ドイツ / 異文化間教育 / 青少年教育 / 差別 / 多文化社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、多文化社会ドイツに生きる青少年の日常性にある共生への葛藤を出発点に、それを乗り越え、多文化共生社会の実現に向けて行動を起こしうる青少年の育成を目指した教育活動に着目し、その理念、理論的背景、教育内容及び具体的教育活動を明らかにすることを目的とする。 具体的には、①アンネ・フランク・センター(Anne Frank Zentrum, Berlin)、②「レイシズムのない学校-勇気のある学校(Schule ohne Rassismus, Schule mit Courage)」プロジェクト(以下、「レイシズムのない学校」プロジェクトと略す)、③「生きること、学ぶこと<書く行為>(Schreibmodus e.V. Leben, Lernen)」グループの活動に着目する。これらの活動はその成果の発信の仕方が異なるものの、青少年が日常で経験する民族や宗教、性差、性的指向などの異なりに対する差別や偏見、レイシズムに直面した際の共生の葛藤を活動の出発点にしている点が共通する。 2015年度は、とりわけ③の活動に焦点化し、資料の検討と現地調査を行った。まず、このグループの設立者の一人であるKnuefken氏が基幹学校で取り組んだ「ドイツ版フリーダム・ライターズ」とも言えるプロジェクトに関する資料を読み解き、移民青少年たちの変化を明らかにし、異文化間教育学会第36回大会で発表した。そして、これらの資料の検討を下に、9月に現地調査を行い、Knuefken氏ほか、このプロジェクトに関わった教師と参加した元生徒にインタビュー調査を行った。 また9月の現地調査では、②に関してNRW州ビーレフェルト市で活動の推進に努めているIsfendiyar氏に「レイシズムのない学校」プロジェクトに参加している青少年のワークショップとネットワーク形成についてインタビューを行い、資料提供を受けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、現在のところおおむね順調に進展している。本研究は、研究実績の概要にも記したとおり、ドイツにおける3つの事例を基に、多文化共生社会の実現に向けて行動を起こしうる青少年の育成を目指した教育活動に着目し、その理念、理論的背景、教育内容及び具体的教育活動を明らかにするものである。 上記の目的の下、初年度である2015年度は、ドイツの青少年教育における異文化間教育、反人種主義教育に関する理論的・実践的動向の把握、3事例の教育活動に関する資料収集・分析を計画していた。申請当初は予定していなかったが、6月末から7月にヨアニナ(ギリシャ)で開催されたInternational Association for Intercultural Educationの大会に参加し、ヨーロッパを中心とした異文化間教育の研究者と研究交流を行い、最近の議論の動向に触れることができた。また、当初計画していた現地調査を2012年9月に実施し、とりわけ、③の事例について集中的な資料収集とインタビュー調査を行った。調査の際には、このプロジェクトに関わった社会教育士、教師、元生徒と調査者が直接話ができるように、Knuefken氏により場が設定され、生徒の立場、教師の立場、社会教育士の立場のそれぞれから話を聞くことができた。また、その際、調査者がこのプロジェクトを異文化間教育の一つであると捉えていることに関心が示され、多文化化しているドイツの学校現場において多様な生徒を対象とした取り組みはある種日常的な教育活動であると捉えるかれらの視点の違いが見いだされた。 ①と②の事例については、継続して研究を行ってきたことから資料収集や分析が③の事例に比べ進んでおり、今年度は訪問調査を実施しなかったものの、インターネット上で公開されている資料の収集を進め、分析を行っている(継続中)。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度に実施した調査結果を基に、2016年度は以下の通り研究を進めていく。 第一に、初年度に収集した文献から、異文化間教育・反人種主義教育の理論的背景、研究動向を整理し、研究対象である3事例による青少年の日常性を出発点にする教育活動の理論的背景を明確にする。 第二に、青少年の日常に存在する共生への葛藤から出発した活動に焦点化し、プロジェクトを構想していく視点や方法について3事例の現地調査を進めていく。まず、①については、Anne Frank House Amsterdamと共同で進められている国際プロジェクト(Stories that move)で青少年の日常性を出発点とした異文化理解・人権学習用の教材開発が進められており、これについてNahm氏にインタビュー調査を行う予定である。また、②については、2015年秋以降に急激に流入した難民に対する支援にプロジェクトに参加する青少年がどのような取り組みをみせたのか、NRW州コーディネーター(Bonow氏)、地域コーディネーター(Isfendiyar氏)にインタビューを行う。③については初年度の調査内容に関するフォローとともに、このプロジェクトに取り組みたいと考える教員へのワークショップについて調査を行いたい。 調査予定地は、ベルリン、ドルステン、ビーレフェルト、ケルンを予定している。すでに、ブダペスト(ハンガリー)で9月に開催されるInternational Association for Intercultural Educationの大会参加とドイツにおける現地調査を予定しているが、2016年度は2度の現地調査を予定しており、2度目の調査については、調査対象と訪問時期の調整を進める。
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Causes of Carryover |
ノートパソコンを購入予定であったが、Windows10の発売によりシステムやソフトの対応状況を見てからの購入を検討しようと考え、2015年度の購入は見送ることにしたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越した予算と本年度の物品費の一部を用い、ノートパソコンを購入する予定である。
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