2016 Fiscal Year Research-status Report
高度成長期日本の高校受験をめぐる言説にみる試験への期待と不信に関する研究
Project/Area Number |
15K17376
|
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
石岡 学 同志社大学, 文化情報学部, 助教 (00624529)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 教育社会学 / 歴史社会学 / 高校入試 / 高度成長期 / 言説研究 / 能力観 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度においては、提出した申請書の研究計画に基づき、作業を進めた。具体的な内容は以下の通りである。 まず、高校全入問題に関する資料について、主として同時代(1960~70年代)に書かれた資料の調査・収集を行った。具体的に調査・収集した資料は、粟津竜智『高校全員入学制:高知のたたかいの記録』(1960年)、大阪教職員組合現代社会主義研究会『国民と高校全員入学』(1962年)、小川利夫・伊ケ崎暁生『戦後民主主義教育の思想と運動』(1971年)などである。次に、高校入試に関する総合誌・週刊誌の記事について、特に「高校全入運動」関連の記事を重点的に調査・収集した。具体的に対象とした雑誌は、『中央公論』『世界』『文藝春秋』『週刊朝日』『サンデー毎日』などである。以上の作業を完了後、これらの資料について分析を進めた。本年度中にまとまった形で研究成果を公表することはかなわなかったが、次年度に学会発表および論文等の形で研究成果の公表を行う予定である。 また、計画書作成時点では含まれていなかったが、本年度、申請者は「2016年度第1回NHK番組アーカイブス学術利用トライアル」に採択され、1950~70年代の青少年・教育に関するドキュメント番組(通常は非公開)の視聴権利を獲得した。これにより、高校生に関わる問題に対する当時の社会的視線・認識枠組みの調査・分析を進めた。 本年度の主な研究成果として、第89回日本社会学会大会にて上記NHKアーカイブス調査に基づく学会発表を行った(「高度成長期のテレビドキュメンタリーが描いた『世代間断絶』」)。また、それをベースとした論文を執筆し、日本教育社会学会または日本教育学会の機関誌に投稿予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書において立案した研究計画では、平成27年度前半に高度成長期の高校入試や学校と社会との関係に関する先行研究(特に歴史社会学的研究)の調査・収集を行い、同年度後半にはこれら先行研究の検討・知見整理の作業と並行して、教育関連雑誌および総合誌における高校入試関連記事の調査・収集を行うことを予定していた。また、平成28年度には前年度後半に収集した資料の分析を行いつつ、週刊誌における高校入試関連記事についての調査・収集を行うことを予定していた。 実際には、本年度は前年度に決定した「高校全入運動」への照準化方針にのっとり、高校全入運動に関する資料の調査・収集・分析に重点的に取り組んだ。その結果として、高校全入運動は必ずしも入試の改廃のみに焦点化した社会運動ではないため(もちろん入試と全く無関係というわけではない)、高校全入運動の関連記事のみをもって本研究課題の解明にあたることは不十分であるとの結論にいたった。以下の「今後の研究の推進方策」でも述べるように、平成29年度は改めて高校入試関連の記事全体を分析対象として研究に取り組む予定である。 以上をふまえ、本年度までの研究の進捗状況については、若干の紆余曲折を経たものの、いずれの作業もほぼ当初の計画通りに進捗しており「おおむね順調に進展している」との評価が妥当と考える。ただし、研究成果の公表という点で本年度はやや課題を残す結果となってしまったため、平成29年度は成果の公表を確実に行っていきたいと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
前述の通り、平成28年度の研究作業を経て「高校全入運動」に照準化することの限界が明らかになったため、当初の予定通り高校入試に関わる言説全体を研究対象とする方向へと研究方針を戻す。結果的には、申請書に記した当初の計画に準拠した研究活動を推進していくこととなる。 したがって、平成29年度においては、申請書の研究計画に則り、平成28年度の後半に調査・収集を行った資料の分析を進めていく。分析にあたっては、申請書に示したように、①試験の利点・欠点として語られていることは何か②言説において前提とされていることは何か(言説発信者の価値観、社会認識等)③どのような状況について、どのような評価がなされているのか、という分析視角を採用して進めていく。 また、これと並行して、平成29年度の後半では、全国紙(『朝日新聞』『読売新聞』『毎日新聞』が中心)における高校入試関連記事についての調査・収集を行っていく。 なお、上記「現在までの進捗状況」にあるように、平成29年度は研究成果の公表にも積極的に取り組んでいく予定である。
|