2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K17450
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
猪股 直生 東北大学, マイクロシステム融合研究開発センター, 助教 (40712823)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 熱センサ / 酸化バナジウム / MEMS |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はピコワット(p(10e-12)W)の熱分解を持つ超高感度熱計測デバイスの開発である.27年度の研究実施計画は,(1)ナノ材料を用いたセンサ(酸化バナジウム(以下VOx)の加工技術・方法の確立とVOx 共振型熱センサの反応温度範囲の広帯域化)および(2)試料-センサ間熱伝導効率の改善であった.(1)に関して,VOxの機械振動子の作製を行った.酸素雰囲気かつ高温(400℃)化におけるバナジウム(V)の反応性スパッタリングによりVOxを成膜し,フォトリソグラフィとCF4によるプラズマエッチングによるVOxのパターニング,VOxに対してダメージフリーである犠牲層エッチング(SiO2:蒸気HFエッチング,もしくはAu:ヨウ素系エッチャント)といった微細加工による任意形状VOxの機械振動子の作製方法を確立した.作製したVOx振動子の共振周波数温度係数を計測したところ,-1400ppm/Kという値を得た.これは報告されているVO2ナノワイヤ機械振動子の5000ppm/Kに対すると小さい値ではあるももの,MEMS分野で頻繁に用いられるSiの-35ppm/Kと比較すると40倍ほど大きい値である.ただし,Q値は500~600程度と,Siの値より大幅に小さいため,機械振動子としての特性を高めるにはQ値の改善が必要である.(2)に関して,熱センサ周辺の熱損失のFEM解析を行った.Siにナノパターンを施す等して面内方向の熱損失の改善を試みたが,大きな改善は見られなかった.つまり,熱損失は面外方向が主で,面内方向の影響は少ないことがわかった. また,機械振動子だけでなく,VOxによる微小サーミスタによる熱センサも作製し,それをマイクロ流体チップ内に組み込み,人の血中濃度に相当するグルコースやコレステロールの検知に成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
VOx機械振動子デバイスにおいて,今年度の計画は作製プロセスの確立と広温度帯域で共振周波数温度係数が大きいVOx成膜手法の検討であった,前者は計画通り,後者は当初の構想と異なる形ではあるが,スパッタリング製膜時の酸素濃度や温度の条件を整えることで一度の成膜で広温度帯域における共振周波数変化を有するVOx薄膜の成膜に成功した.さらに次年度に計画していた作製したVOx振動子の評価も前倒しして今年度内に行い,種々の改善点を見出した.また,もう一つのアプローチとしてVOxによる微小サーミスタによる熱センサも行い,グルコースやコレステロールの検知に成功している.これらは初期の研究計画にはなかったが,VOxの電気抵抗値温度依存性が大きいことに着目した.実際に作製した薄膜デバイスのそれを評価したところ,-1.34%/Kであった.この値はサーミスタとして一般的に用いられるPtより3倍大きく,高感度熱量センサの材料として非常に期待の持てる材料であることを示した.熱量センサの材料としての評価だけでなく,実際にマイクロ流体チップデバイス内にVOx微小サーミスタを組み込み,応用例として生体分子検出を行った.以上の評価より,現在の達成度を「当初の計画以上に進展している」とした.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の研究計画は,熱量センサの評価および修正,細胞への応用,センサの高感度化等に向けた補助的要素である.特に次年度は熱量センサの高感度化を中心に研究を行う.そのためには,VOx薄膜成膜の条件を最適化する必要がある.今回製膜したVOxは温度変化に対する共振周波数が大きいVO2ではなく,種々の酸化バナジウムの混合物であることがわかっている.この混合率を変えることでどのように共振周波数の温度変化が変わるかを更に検討する.また,Q値が低いため,共振周波数温度係数の変化が大きくても,著しい高感度化にはつながっていない.そのため,アニール等によるQ値の改善も検討する必要がある.また,VOx機械振動子の作製プロセスが確定したので,マイクロ流体チップ等への組み込みを考慮した作製プロセスを再検討およびデバイスを作製し,評価する.前述のとおり計画外ではあるが,サーミスタ型デバイスは高感度熱センサとして非常に大きな可能性を有していることが計算上わかっている.それを実現するには周囲への熱損失の低減もしくは断熱が高感度化への鍵となっているため,センサの構造やマイクロ流体チップ等の材料を工夫するなどして解決する.以上,酸化バナジウムをベースとした2種の熱センサに関して研究を進め,各々の特性を活かし,目的であるピコワット(p(10^-12)W)の熱分解を持つ超高感度熱計測デバイスの開発を目指す.
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