2015 Fiscal Year Research-status Report
膜タンパク質進化工学によって人工細胞の捕食能を獲得する
Project/Area Number |
15K17454
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Research Institution | Kanagawa Academy of Science and Technology |
Principal Investigator |
藤井 聡志 公益財団法人神奈川科学技術アカデミー, 人工細胞膜システムグループ, 研究員 (60619005)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 人工細胞 / 膜タンパク質進化工学 / リポソームディスプレイ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は脂質二重膜小胞(リポソーム)を細胞構造とし、内部でタンパク質合成などの細胞様の生命現象を封入した人工細胞の構築を目指している。このような人工細胞の再構築研究は、生命の根本理解のみならず、生命現象を産業利用する基礎技術として注目されている。これまでに、高次な複合体を形成するタンパク質の合成やそれをコードする遺伝子の複製反応など、一過的な生命現象の再構築例はあるものの、永続的に代謝を続ける人工細胞の構築例はない。その理由の一つが、内部の栄養が枯渇することにある。そこで、本年度は人工細胞に捕食能を付与し、代謝反応が恒常的に発現する人工細胞の構築を目指す基盤技術の確立を目的としている。 現在は人工細胞に対し、栄養を封入した別の人工細胞を供給し、能動的に結合する様式を樹立している。既存の研究により、リポソームを積極的に接触させ、結合を促すことでリポソーム同士の融合が起こることが知られている。そこで、本研究でも人工細胞の結合力を確立し、高め、最終的には外部に浮遊する人工細胞から栄養を取りこむシステムの構築を進めている。人工細胞同士の結合には膜タンパク質を内部で合成し、脂質膜表面に呈示し、タンパク質間結合力を利用する。これまで、天然に存在する膜タンパク質と結合活性を持つペプチドを結合したキメラ膜タンパク質を人工的に設計し、膜タンパク質が脂質膜に挿入すると共に人工細胞間結合を触媒するペプチドを人工細胞外部に呈示するシステムを確立した。フローサイトメーターなどの網羅的解析を通して人工細胞同士の結合が起こることを明らかにした。本結果は、人工細胞が自身の保持する遺伝子の活性によって外部の人工細胞を結合させる、「捕食能の一端」の再構成に初めて成功したものである。今後は、より人工細胞同士の結合力や、他人工細胞を捕食する活性を向上させる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在は人工細胞同士の結合能力を人工細胞内の遺伝子に導入し、結合した細胞から栄養を取りこむシステムの構築を進めている。人工細胞同士の結合には膜タンパク質をリポソーム内部で合成し、脂質膜表面に呈示し、タンパク質間結合力を利用する。これまでに、膜タンパク質が細胞膜を貫通し、人工細胞外に呈示される頻度を検出する染色方法を開発した。また、大腸菌ゲノムに由来する膜タンパク質を合成して脂質膜に呈示させることに成功した。これまでに、膜タンパク質の遺伝子を複数種類作成し、人工細胞内部で合成した膜タンパク質が脂質膜外部に呈示する技術を開発してきた。具体的には膜を貫通する回数が10回あるもの、7量体の複合体を形成するもの、また膜貫通領域がα-へリックスやβシートから構成されるものなど、多様な膜タンパク質を脂質膜に呈示させることに成功した。 また、天然には存在しないキメラ膜タンパク質を人工的に設計し、膜タンパク質が脂質膜に挿入すると共にリポソーム間結合を触媒するペプチドをリポソーム外部に呈示する条件を確立した。脂質膜外部に呈示したペプチド配列は特定の配列を持つペプチド同士で組み合わさってα-へリックスを形成するようにデザインしてある。これにより、リポソーム同士が結合することをフローサイトメーターなどの網羅的解析を通して明らかにした。結合様式は、ランダムではなく異種リポソーム間を特異的に結合させることにも成功し、人工細胞の組織化様式をデザインする一例を初めて示した。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度は所属先が変わり、MEMS、膜タンパク質の一分子活性検出、電気生理学解析を学べる環境に移動した。一方で、人工細胞にはタンパク質合成をするための無細胞翻訳システムが必要だが、その調製に関わる設備が足りず、購入に頼る必要が出てきたため、際限なく試行錯誤を繰り返す程の余裕はない。フローサイトメーターなどの装置は以前と同様に使用できる環境にある。以上のことを考慮し、リポソーム同士の結合力の詳細な解析に挑み、進化工学実験の前段階として金属イオンがリポソーム同士の結合力、融合力に与える影響を網羅的に解析する。金属イオンは膜タンパク質と脂質膜の双方に強く相互作用し、膜タンパク質の活性促進または抑制、または脂質膜同士の融合または不安定化など、あらゆる側面を持っている。フローサイトメーターでリポソームの融合頻度を詳細に解析する技術を確立し、これまでと同様のキメラ膜タンパク質の遺伝子を用いてリポソーム間結合力を外環境のバッファ組成の最適化によって向上させることで人工細胞の捕食能の獲得を目指す。1価、2価、3価の金属イオンの違いについても注目する。リポソーム間結合を促進する最適な条件を割り出し、そのときに得られた融合能を評価すると共に進化工学実験を進める基礎技術を確立する。その後、進化工学によってリポソーム間結合力、融合力の向上を図る。
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Research Products
(8 results)