2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K17490
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
増田 亮 京都大学, 原子炉実験所, 研究員 (50455292)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | メスバウアー分光 / 放射光 / ガドリニウム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では期間全体を通して、希土類系材料の研究/開発の推進ために3つのガドリニウム同位体Gd-155(放射性同位体線源でのメスバウアー分光法での蓄積あり)、Gd-157(エネルギー分解能が最高)、Gd-158(同位体存在比が最大)についての放射光メスバウアー吸収分光法を検討・開発するものである。そのため、1、Gd核共鳴散乱のエネルギー(64 ~ 87 keV)における放射光強度の確認及び不足している場合の強度確保法の試行、2、放射光メスバウアー吸収分光法のキーコンポーネントであるエネルギー基準体に最適な化学種の選定、3、価数や磁性に対する応答の物性測定への応用可能性の確認及び応答性が不足する場合の改善法の模索、を行うものである。平成29年度においては、上述の1および2に該当する、測定分光光学系の改善及びエネルギー基準体候補の作成法の調査・調製の試行を主として行った。とくに、分解能の高いGd-157においては測定計数が不足していると見込まれたため、同位体存在比が最大であるが分解能が低い一方で測定計数が最も多いGd-158において、測定計数を犠牲にして分解能を向上させる手法を検討し、従来の手法に対して効率的に分解能向上を可能にする測定系を開発した。また、同位体富化試料の価格高騰による試料の少なさが、物理的強度が必要とされるエネルギー基準物質作成上の難点となっているが、この改善のために薄膜試料の作成を検討し、試料の劣化を防ぎ且つ試料のロスの少ない有効な手法は未だ試行錯誤している最中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現状では、核共鳴散乱強度の確保が課題となっている。実際、非同位体富化のGd2O3を窒化硼素に混合した試料を用いたX線のみ測定では、最も同位体存在比が高くエネルギー幅も広いために測定計数が高いGd-158に対してすら、強度が毎秒0.4カウントしか得られず、このままでは、1スペクトルの測定に数日程度かかる。一方で、昨年度までに構築している電子散乱を測定する検出系では測定効率改善を図っているが、検出強度がより栖ないGd-155とGd-157についてはかなり測定計数が厳しいことが予想された。このため、本年度はGd-158で分解能を向上させる測定系を開発した。放射光メスバウアー吸収分光法では、利用する原子核準位の半減期から不確定性関係で決定されるエネルギー幅の2倍という、従来のメスバウアー吸収測定の分解能の限界を超えて、より良いエネルギー分解能を原理的には実現できる。この手法では、核散乱の崩壊過程に対して測定系を時間的に同期して、適切な時間窓を設定するが、このために設定されなかった時間領域で検出された情報は利用されず、測定計数は犠牲になる。必要な分解能は測定したい事象(磁気モーメント、価数、など)によって異なり、すなわち適切な時間窓も異なってくるため、事後にこの時間窓をある程度設定しなおせるように、計数に対してエネルギー-時間の2変数でスペクトルを得られる測定系を構築し、エネルギーが近く、強度が充分なNi-61を利用して測定系の動作が正常であることを確認した。また、円安等による価格高騰のために250 mgしか手配できなかった同位体富化試料を効率的に利用するため、薄膜試料の作成について検討した。実際、必要な厚さは単体で2 ~ 3ミクロン程度である。しかし、大気中の圧延では試料が酸化して変質してしまったり、蒸着による成膜では回収率が低かったりと難点があり、未だ検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度以降は、EuやSmなどの周期表で近傍にある希土類元素を用いた放射光メスバウアー吸収測定を参考にしつつ、構築した高分解能化測定系を用いて、Gd-158に対する放射光核共鳴散乱強度を評価する。とくに、エネルギー基準物質についてはドップラー効果によるエネルギー走査のために駆動するために物理的強度が課題となっているが、十分量の試料が用意できる非同位体富化試料については、多結晶試料の背面を高分子材料で強化することで、試料の確実な固定を実現する。他方、同位体富化試料においては原料が少なすぎることから、同様の方法では高分子材料が混入して測定効率の低下が予想されるが、それでも非富化試料よりは測定計数は大きく向上する見積のため、まずは大気中で安定な酸化物に限って多結晶試料に対して同様の高分子材料による背面強化を行う。これにより、X線・電子をともに測定する放射光メスバウアー吸収測定を行い、実用可能レベルの信号強度の確保を目指す。非同位体富化Gd2O3試料での毎秒0.4カウントの核共鳴散乱実験結果から、同位体富化により4倍程度、電子測定で2-3倍の強度増大を図り、毎秒4カウント程度の強度を確保し、実際に吸収スペクトルの測定を目指す。
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