2015 Fiscal Year Research-status Report
耐薬品性に優れたフッ素系高分子からなるイオン穿孔膜作製法の研究
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15K17492
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
小川 茜 (喜多村茜) 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力基礎工学研究センター, 研究員 (50611183)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | イオンビーム / イオン穿孔膜 / フッ素系高分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、重イオンビーム照射を用いて、産業レベルで現実的な作製手法がないフッ素系高分子のイオン穿孔膜作製手法及び孔径制御手法を開発することを目的としている。 今年度は、まず初めに、原子力機構高崎研TIARAサイクロトロンの末端に、大気中に引き出したビームを雰囲気制御下で照射できるチェンバーを作製した。この照射チェンバーの開発により、フッ素系高分子であるPVDF膜に対して、520 MeVの大面積均一アルゴンビームを酸素中で照射することに成功した。照射膜のフーリエ変換赤外線分光法の結果、通常の真空中照射と比較して、酸素中で照射した膜の飛跡内には、酸素含有の官能基がより高濃度で形成されることがわかった。また、化学エッチング処理によって照射膜に穿孔を作製し、その表面を走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、酸素中での照射により、エッチング処理の初期における孔径の増大速度が速くなることを見出した。96時間の浸漬によって、穿孔径は、真空中での照射の場合は約250 nmであったのに対し、酸素中での照射の場合は、約550 nmにまで達した。これらの飛跡内生成官能基の分析及びイオン穿孔形成挙動の分析の結果、酸素中照射による穿孔径拡大の理由は、照射中の酸素の存在がエッチング可能な飛跡を増大させたためとわかった。すなわち、飛跡内で生成したラジカルは、再結合あるいは消滅の前に酸素と反応したため、真空中での照射に比べて、飛跡内には酸素含有官能基がより高濃度に形成されたと言える。これにより、化学エッチング処理中に飛跡のエッチングが促進され、その範囲も拡大したと考えられる。 この成果は、本課題での作製手法が、エッチング処理時に飛跡内への溶液の浸透が促進され、飛跡以外の領域に損傷を与える強酸化剤を添加することなく、高い効率でフッ素系高分子の特長を保持したイオン穿孔膜が作製できることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、雰囲気制御下で照射できるチェンバーを作製し、飛跡内生成官能基の分析及びイオン穿孔形成挙動の分析を行うことを予定していた。チェンバーの開発による照射実験手法の確立、官能基の分析、穿孔形成挙動の分析のうち走査型電子顕微鏡を用いた手法は、予定通り成果を得た。年度途中の育児休暇により、コンダクトメトリー装置を用いた穿孔形成挙動の分析が中断されたが、顕微鏡による結果を補填する結果が得られており、穿孔形成挙動を明らかにできる成果を得る見通しがある。 このことから、休暇前の期間内においては、当初の目的を達成するよう進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に作製した照射システムを用い、得た各分析結果を、照射実験及びエッチング条件へ繰り返しフィードバックさせることにより、最も高い効率で穿孔を作製でき、かつ孔径も制御できる手法を開発する。同時に、酸素含有の親水性官能基が、より多く飛跡内に生成できる条件を特定する。また、フッ素系高分子の試料を、PVDF以外に、ETFEやPTFEへも拡大させて研究を進める。成果の論文発表を行う。
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Causes of Carryover |
産前産後休暇を取得し、研究を中断しているため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験に必要な薬品・材料類の購入に充てる他、これまでの成果を元に国内外での学会や論文誌で成果発表を行うために用いる。
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Research Products
(1 results)