2015 Fiscal Year Research-status Report
時間に依存した第一原理電子輸送シミュレータの開発と応用
Project/Area Number |
15K17497
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
江上 喜幸 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20397631)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 時間依存密度汎関数法 / 電子輸送 / 数値シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、これまでに開発してきた時間依存密度汎関数理論に基づく第一原理電子輸送シミュレータであるImpulse Response(IR)法を基軸として、機能を拡張させた新たなシミュレータの開発に取り組んでいる。ここでは、結晶電極を用いた計算、および電磁場中での電子輸送特性解析が可能な手法へと機能を拡張することで、定量的な評価を目指した汎用性の高い時間依存電子輸送解析を可能とするシミュレータへと発展させることを目的としている。 当該年度において、結晶電極の奥深くから伝播してくるBloch波の動的な散乱の様子を解析するためのアルゴリズムとして、平面波を基底関数としてBloch波を展開することで、その時間発展解を平面波の時間発展計算によって得ることを考え、プログラムへの実装を行った。時間変動する散乱波動関数が十分に時間経過することで定常状態の解に漸近することを利用し、得られた時間発展解と定常状態における計算結果との比較により精度検証を行った。しかし、予定していた精度での結果が得られず、プログラムコードおよびアルゴリズムの検証を行い、問題点の洗い出し、解決に取り組んだ。 また、性能検証および適用研究に向けて、有機・無機分子接合やカーボンナノチューブにおける定常状態の電子輸送特性について解析を行い、ナノ物質における輸送電子のスピンフィルタリング機能や不純物ドーピングによる散乱強度に関する研究を推進した。これらの成果は、機能性分子デバイス研究や炭素系ナノ物質ベースの電子デバイス研究における新たな知見を与えるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在までに、時間依存密度汎関数理論に基づく第一原理電子輸送シミュレータであるImpulse Response(IR)法について、結晶電極を用いた計算が可能な手法へと機能を拡張することを試みた。ここでは、電極奥深くから伝播してくるBloch波の時間発展を効率的に計算するためのアルゴリズムの開発、実装に取り組んだ。 結晶電極中のBloch波の時間発展演算アルゴリズムとして、結晶電極におけるBloch波を平面波展開することで、その時間発展解を平面波の時間発展計算によって得ることを考え、プログラムコードへの実装を行った。Bloch波の時間発展演算を十分に繰り返すことで定常状態の解に漸近することを利用し、時間発展解と定常状態における計算成果との比較により拡張機能の精度について検証を行った。 しかし、当初考案したアルゴリズムでは十分な計算精度が得られなかったため、プログラムコードおよびアルゴリズムについて精査するとともに、問題点の洗い出しのため、条件を変えながら繰り返しシミュレーションを実行した。基礎理論についても見直しを行い、アルゴリズムの修正を行ったが、未だ十分な計算精度には至っていない。このため、当初の研究計画より進捗がやや遅れている。 一方で、性能検証および適用研究に向けた準備として、定常状態における分子接合系やカーボンナノチューブの電子輸送特性研究についてもあわせて推進した。これにより、ナノ物質における輸送電子のスピンフィルタリング機能や不純物ドーピングによる散乱強度に関する新たな知見を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、新たに実装した機能の精度検証とプログラムコードのチューニングを行う。十分な性能が確認された段階で、具体的な適用研究として、特異な電子物性を持つことから近年注目を集めているナノグラフェンを対象とした基礎研究に取り掛かる。デバッグ作業や一部のテスト計算は小規模のクラスター計算機上で、長時間シミュレーションは超並列計算機上で実施する。 また、ナノグラフェンだけでなく次世代デバイス材料として期待が寄せられているカーボンナノチューブ(CNT)やフラーレンなどの炭素系ナノ構物質やシリセンなどの層状物質を対象とした研究に取り組む。これらは単体としても十分興味深い物質であるが、たとえばナノグラフェンをリード電極として接続したCNTなどの複合構造についても大きな注目が寄せられており、より多彩なデバイス特性が発揮されることが期待されている。本研究で開発する手法を、このような複合構造に適用し、動的な輸送プロセスをリアルタイムに解析することで、次世代デバイスの開発・設計に指針を与えることを目指した研究を行う。また、実際のデバイス作製において問題となる格子欠陥や不純物の吸着なども想定した系を考え、これらがデバイス特性に与える影響についても解析を行う。 年度の後半においては、本研究課題の総括を行うとともに、次のステップに向け、時間変動する外部ポテンシャル場に対する応答など、さらに実践的な研究への取り組みを開始するほか、開発したプログラムの公開を目指し、パラメータの入力から計算結果の可視化までを簡素化するため、インターフェイスの開発およびマニュアル等の整備を行う。
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Causes of Carryover |
設備備品として購入したクラスター計算機の調達において、ベンダー業者内で価格変更があり、当初の予算執行計画を変更する必要が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度交付金と合算して、データ整理用のストレージなどのクラスター計算機周辺機器の購入に充てる。
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Research Products
(4 results)