2015 Fiscal Year Research-status Report
測度距離空間の幾何解析-最適輸送理論と情報幾何の融合と応用-
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15K17536
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
高津 飛鳥 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (90623554)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 測度距離空間 / 測度の集中現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は完備可分な距離空間とその上の確率測度のなす三つ組である測度距離空間上の幾何解析を行った。測度距離空間上の解析の中でも、申請者は距離関数と測度の関係を表す等周不等式と集中不等式に関心がある。ここで等周不等式とは、領域の表面積を領域の体積を変数とする関数で下から評価する不等式であり、集中不等式は大雑把には等周不等式の積分とみなせる関数不等式である。そして集中不等式は測度距離空間上の1-リプシッツ関数が定数にどれくらい近いのかを表し、測度距離空間上の1-リプシッツ関数が殆ど定数であるとき、測度距離空間で測度の集中現象が生じるという。そしてM. Gromovは測度の集中現象を用いて、測度距離空間列の弱収束を定義した。ここで測度距離空間列の弱収束は、対応する測度距離空間上の1-リプシッツ関数のなす空間列の収束によって定義される。例えば一点空間上の1-リプシッツ関数は定数関数のみであり、測度距離空間列X_Nが一点空間による測度距離空間に弱収束することは十分大きい自然数Nに対してX_N上の任意の1-リプシッツ関数が殆ど定数であることを意味する。この弱収束は測度つきグロモフ・ハウスドルフ収束より弱く、そして測度距離空間列の次元が無限に発散するときの解析に適している。
そこで申請者は東北大学の塩谷隆教授と共に、弱収束するが測度つきグロモフ・ハウスドルフ収束しない測度距離空間として、(N,n)-スティーフェル多様体の振舞を解析した。ここでNとnは自然数であり、(N,n)-スティーフェル多様体とはN次元ユークリッド空間の中の正規直交n枠を元とする多様体である。そして距離関数としてはフロベニウスノルムから誘導される距離関数の√N倍、測度としては正規化されたハール測度を考える。このとき(N,n)-スティーフェル多様体はNを無限大にしたときに無限次元ガウス測度空間に収束することを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的は、測度距離空間の曲率次元条件および情報幾何を用いた幾何解析である。測度距離空間の幾何解析は、申請時に比べ様々な理論が格段に進展した。特に申請者が考えていた形に非常に近い形の関数不等式の同値性は F. Cavalletti と A. Mondino によって既に示されている。しかし彼らの手法に情報幾何の特色を織り込むことは容易でないため、申請者は考えている不等式の関係性を他の視点から考えることにした。
そこで曲率次元条件においても情報幾何においても基礎土台をなしているガウス測度に焦点をあて、その周辺事象を詳細に調べた。それが上述のスティーフェル多様体の結果である。ここでユークリッド空間とその上のガウス測度がなす測度距離空間はユークリッド空間の次元に依らず常に曲率次元条件CD(1,∞)を満たす。また測度距離空間列の弱収束下における曲率次元条件の安定性は未明な部分が多い。実際、我々の枠組では(N,n)-スティーフェル多様体はNに依存したある曲率条件を満たすが、Nを無限大に発散したときにこの曲率次元条件はCD(1,∞)にならないことが期待される。一方、測度距離空間の弱収束を構成する際に土台となる集中不等式は、正数Kに対する曲率次元条件CD(K,∞)から導かれ、集中不等式の評価はKに依存する。そこでNを無限大に発散させる際に、どこかでギャップが生じると思われるが、その理由を微細に解析することは申請者の考える不等式に進展をもたらすと考えられる。
以上を鑑みて本年度不等式の関係性の解明そのものには大きな進展はなかったが、本年度得られた結果は課題である不等式の解析に多いに役立つと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
曲率次元条件および情報幾何を用いて、等周不等式のみならず等周不等式と関連する事象について考察を深める。そこでまず発展方程式の漸近挙動を曲率次元条件と情報幾何を融合させることで解析する。例えば現在、J. A. Carrillo、M. Di Francesco、G. Toscaniの三氏によってユークリッド空間上の非斉次発展方程式の漸近挙動が示されている。証明の鍵は曲率次元条件から導かれるエントロピーの凸性と、ユークリッド空間のダイレーションが確率測度空間(ワッサースタイン空間)のダイレーションを誘導することである。申請者は数理解析研究所の横田巧氏との共同研究で、錐構造を持つ距離空間のダイレーションがその上のワッサースタイン空間のダイレーションを誘導することを示した。さらに京都大学の太田慎一氏との共同研究にてワッサースタイン幾何に情報幾何の概念を導入することで、重み付きリーマン多様体上における移流項を加えた非斉次発展方程式の漸近挙動の描写を得ている。これらを踏まえると、ある種の重み付きリーマン多様体上で移流項のない非斉次発展方程式の漸近挙動が同様にで描写できることが期待できる。そしてこれらの発展方程式の漸近挙動からソボレフ不等式のような関数不等式を導き、そこから等周不等式の解析を進めることを目指す。
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Causes of Carryover |
平成28年度にボンで行われる研究集会参加およびその後の研究打ち合わせによる滞在費用を捻出するために、平成27年度の使用額を抑える必要があった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度にボンで行われる研究集会参加する。またその他の研究集会にも精力的に参加する予定である。
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Research Products
(6 results)