2017 Fiscal Year Research-status Report
群の順序構造による視点からのトポロジーの研究とその応用
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15K17540
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
伊藤 哲也 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (00710790)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 強擬正組みひも / 擬正組みひも / オープンブック分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
組みひも群の元について、擬正/強擬正(quasi positive/strongly quasi positive)と呼ばれる概念が定義される。これらの概念は、結び目理論や組みひも群の代数的な構造の研究において最初は導入された概念であるが、その後の発展により、順序構造や接触構造といった他の構造とも関連することがわかり非常に興味深い対象となっている。これまで、擬正または強擬正組みひもといった概念は、3次元球面内の閉組みひも、特に古典的な組みひも群の場合にしか定義されていなかった。昨年度後半に行った研究に引き続き、三次元多様体のオープンブック分解を利用することで一般の3次元多様体内の閉組みひもについて、擬正・強擬正の定義を拡張し、その性質について研究を進めた。
研究の結果として、一般の3次元多様体内での強擬正の閉向きひもについても、古典的な場合に知られている様々な性質が(適切に一般化した定式化を与えることにより)成立することがわかり、われわれの定義が適切な拡張になっていることを確認した。特に、接触幾何との強い関連を示すものとして、強擬正閉組みひものself-linking numberに対するBennequin-Eliashberg不等式のdefectについての研究を進め、defectが0であることと強擬正が同値であるという予想について研究を進めた。この予想を一般化し、defectの値を幾何的に記述する予想を提起した。これは、結び目が円盤とバンドに分解できるような良い性質を持つ曲面の境界となることを主張するものである。実際に、若干の追加の仮定の下でその予想の証明を与え、予想を証明する一つの足掛かりを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
直接に順序構造とトポロジーなどのと関連や、あるいは順序構造自体の研究は思うように進まなかったものの、強擬正組みひもの理論の一般化については着実に進展し、Bennequin-Eliashberg不等式と組みひも表示との関係がだんだんとわかってきた。特に、自身の立てた予想について、肯定的な部分解答を得たことで、現在提唱している強擬正組みひもの一般化の定義が正しい枠組みであることの根拠を与えることができた。また、その副産物として、一般の三次元多様体の閉組みひもの構造やそのあいまいになっていた基本事項の整備を行うことができ、閉組みひもの理論の基礎がより明確になってきた。
順序構造の研究とは直接は関連していないものの、これまでの順序構造の研究やそれに関連したトポロジーの研究で得た知見や手法から着想を得ることで、結び目群についての周辺的マグナス性や、矯飾的手術予想といった低次元トポロジーでの他の問題についても一定の進展を得ることができ、今後の新しい研究の一つの着想を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、一般の(接触)3次元多様体での強擬正組みひもや、より一般に組みひも群の元あるいは閉組みひもについてのpositivity(正値性)の一般化及びその応用に考察を続けていく。組みひもの正値性の概念は、(全順序とは限らない)適当な半順序に関して正であるという観点から理解できる。したがって、これらの概念の研究は順序構造の研究のある種の一般化ととらえることができ、順序構造とトポロジーという研究課題の推進に大いに役立つことが期待される。
現在のところ、適切な生成元を用いることで擬正・強擬正といった概念を定義している。この定義は代数的な色彩が強く、また、特定の表示に依存するという難点がある。理論的な観点からは、生成元によらない、より内在的かつ幾何的な同値な定義を与えることが望まれる。強擬正の特徴づけについては、先に述べたdefectが0であること、つまりそのBennequin-Eliashberg不等式が実際に等号になっていることが同値であることが予想されている。現在のところ、部分的な解決を得ているこの問題について、今後はその予想の周辺をより精密に理解することを目標とする。
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Causes of Carryover |
次年度に研究代表者が大阪大学から京都大学へと異動することとなったため、年度末にかけて異動に関連した用務・手続きが必要となった。それに伴い、1月~3月にかけて参加を検討していた研究集会や学会への参加や、研究打ち合わせといった出張・講演などを取りやめる必要が生じ、当初の想定よりも旅費の使用額が減少した。また、いくつかの物品については異動先の設備に応じて購入・更新する必要が想定されるため、予定していた物品の購入・更新を延期した。 次年度は異動に伴う設備の整備が必要であるので、研究環境の整備に今年度未使用であった経費を用いる予定である。
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