2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K17553
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 康彦 京都大学, 理学研究科, 助教 (70581502)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 作用素環 / 従順群 / 分類可能性 / Jiang-Su環 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、核型C*環の分類理論は完成を迎えつつあり、その中で分類可能な範囲を具体的に与える事が中心的な話題となっている。分類判定条件は Toms-Winter予想として定式化され、現在は基本的な条件下で予想の適正さが証明されている。その研究の流れで、当該年度は従順群の核型C*環への作用を研究し、そこから自然に得られる作用素環が分類判定条件を満たす事を示した。より正確には、従順群の作用を用いた接合積とよばれる操作が分類可能条件である「Jiang-Su環の吸収性」を保存する事を証明した。既存の研究では、この種の分類可能性を得るために、力学系に強い外部性を課す必要があり、分類可能性が群の作用の仕方に依存する事が通説となっていた。実際、多くの研究者が Rohlin性やその類似条件を仮定し、Jiang-Su環の吸収性やそれと同値な核型次元の有限性を示している。本研究の代表者も以前は、初等的従順群の作用を研究し、強い外部作用の条件下で接合積の分類可能性を得ていた。これらの先行結果と比較し、当該年度の研究では力学系にほぼ条件を仮定する事なく、Jiang-Su環の吸収性を得る事に成功した。
この定理から得られる一つの成果として、外部的な従順群作用の接合積が基本的な条件下では核型次元1以下である事を示した。既存の研究では、具体的な構成方法からRohlin次元などの力学系の情報と、もとの環の核型次元を合わせて接合積の核型次元を計算する方法が考えられていた。この手法は沢山の群作用で応用され、多くの例で核型次元が計算されている。一方で、この方法は与えられた群作用の条件に強く依存し、核型次元の最小値が計算できない問題点があった。核型次元1は有限次元環で近似できる環を除いて最小の値であり、1以下は最適な数である。本研究では直接この核型次元の最小値を与え、群作用によらない統一的な計算手法を与えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的の概要に記載した離散従順群の作用素環への研究は大きな進展が得られ、分類可能性という方向で重要な結果を得た。これは従来知られていた分類可能な接合積の構成方法を大きく拡張し、今後研究されるべき接合積の例を強外部性の条件から外部性の新たな枠組みへ広げるものである。
研究計画通り、アメリカでの長期滞在を遂行し、本研究に関わる大変有益な情報や力学系にたいする重要なアイディアを得る事ができた。また、Purdue大学をはじめとするアメリカの多くの大学でこの研究結果を発表し、この分野における本研究の影響を印象づける事ができた。実際、すでに D. Kerr や S. Szabo氏など力学系を専門とする作用素環の研究者に当該年度の研究結果が引用され、この分野に大きな影響を与えている。具体的には、彼らの Jiang-Su環の吸収性を証明する手法や、アーベル群のJiang-Su環への強外部作用の分類は本研究のアイディアが基本となり、証明で鍵となる道具を提供している。また本研究の主定理では、接合積の核型次元を本質的にとらえる事に成功し、これまで考えられていた核型次元の計算手法に劇的な進歩を与える事が予想される。これらの事から、本研究の主題である従順群作用の研究は順調であると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
研究目的の1つである、QDに関する問題に基本的な解答を与える。より精密に、従順群の情報から有限次元近似に関する構造定理を得る事を目指す。これまでの従順群作用の研究では von Neumann環の研究に強く依存する方法が主流であった。これは研究代表者がvon Neumann環の研究と核型C*環の研究を結ぶ事で確立した手法である。しかし、近年話題となるQDやUCTといった作用素環の構造条件を得るには、von Neumann環の議論を通らない、より直接的なC*環の議論が必要である。実際、初等的従順群の作用を考えた場合 von Neumann環の議論を必要とせず、自然に構成される接合積に対し QDや UCTの条件を得る事ができる。また、Baum-Connes予想に関する Higson-Kasparovの議論では数理物理的な手法を介して、K-理論のレベルで、有限次元近似が示されている。これらの事から、有限次元の表現を近似する手法が従順群の作用に潜在的に含まれている事が予想され、直接的な方法でQDやUCTを得ることが期待できる。今後の研究では von Neumann環の議論や、分類理論を直接用いずにQDやUCTの構造条件を得る方法を確立したい。特に、安定有限と従順C*環の条件から、より精密な帰納極限の構造が得られるのではないかと予想している。
またこの研究の方向性で、TAFの議論を通らず、直接C*環の分類定理を得る方法にも着手する。 現在知られているC*環の分類理論ではTAFとよばれる条件を介して分類定理を得る方法が主流となっている。一方で Gong-Lin-Niuらによる200ページを超える論文の複雑さから、TAFを通らず直接分類定理を証明する方法も求められている。この問題に対し、本研究で得られた核型次元の技術が直接的な証明方法を導くと予想している。
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Causes of Carryover |
航空代金の変動のため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
基本的に当初の計画通り出張旅費に使用する。 余剰分については情報収集を目的とし、国内の研究集会の旅費にあてる。
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