2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K17618
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
久保 雅仁 国立天文台, SOLAR-C準備室, 助教 (80425777)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 太陽物理学 / 電磁流体力学 / 磁気リコネクション / 太陽磁気活動 / 偏光分光観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、磁束相殺現象に関する磁力線の変化を3次元的に得ることで、太陽における磁場の消失過程を理解することを目的としている。磁束相殺現象は、反対極性の磁気要素が衝突した後に太陽表面から消えていしまう現象で、太陽のいたるところで様々な空間スケールで観測され、効率の良い磁束消失過程として重要視されている。また、上空での加熱現象が頻繁に観測されることが知られている。この目的のために、平成28年に引き続き、米国国立太陽観測所サクラメントピーク天文台の太陽磁場観測装置、「ひので」衛星、NASAのIRIS衛星との共同観測を実施した。平成28年度の観測結果の課題を踏まえて、彩層上部の磁場を測定する偏光分光器を追加した。良好なシーイング状態で磁気浮上領域の中央付近で起きた磁束相殺現象を捉えることができた。この共同観測では、高い時間分解能を狙うために、スリットスキャン分光器の観測視野を絞ったが、全ての観測装置の視野が重なり、スリットが磁束相殺現象にぴたりと当たる非常に貴重な観測となった。平成28年度に観測した静穏領域やダークフィラメント直下の磁束相殺現象と同様に、まずはU字型の磁力線構造が形成され、その後で磁気リコネクションによって磁力線の繋ぎ変えが起きることを示唆する結果を得た。また、磁気リコネクションが彩層下部の低温な領域で発生している証拠を得ることができた。さらに、磁束の減少とほぼ同時刻から、低温のジェットが繰り返し発生し、そのジェットの発生頻度が彩層下部と上部で異なるという新たな知見を得ることができ、国内学会で成果を発表した。 また、平成28年度に取得した観測データに関しては、2件の国際学会での発表及び議論の結果を踏まえて、共同研究者と再度査読論文へとまとめる方針を整理し、査読論文を準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の計画の中で最も重要な達成項目であった、米国国立太陽観測所サクラメントピーク天文台での共同観測を4月24日から5月2日に実施し、貴重なデータを得ることができた。平成28年度に取得した共同観測結果とあわせて、静穏領域、ダークフィラメント直下、活動領域、磁気浮上領域での磁束相殺現象を比較することができるデータセットを得た。特に、平成29年度の共同観測結果は、すべての観測装置の視野が重なっており、磁束相殺現象に限らず、今後さまざま研究に活用できるデータが得られたと考えている。 平成29年度の共同観測で追加した偏光分光器では、彩層上部の弱い磁場に起因する偏光信号を測定する必要があり、観測装置起源の偏光信号を除去する必要があるが、米国国立太陽観測所の専門家と丁寧に偏光較正を実施し、太陽起源の偏光信号が確実に受かっていることが確認できた。当初の計画では、この偏光信号から彩層上部の磁場構造を重点的に調べる予定であったが、磁束相殺現象に伴う彩層・コロナのダイナミクスに関して面白い現象が受かっているので、まずはそちらに焦点を当てることにした。 平成28年度に得られた結果に関しても、国際学会での発表や議論を通して、成果を洗練されることができた。ただし、平成29年度中の査読論文への投稿には至らなかった。これは、平成29年度の観測で、複数の観測データから想像以上に多くの物理量を得ることができ、その整理に時間がかかってしまったためである。 優れた観測データセットを得て、データの較正・解析においても問題は無く、今後は成果を順次発表してく道筋が見えているので、概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に実施した共同観測で得られた結果は、静穏領域およびダークフィラメント直下の比較的単純で孤立した磁束相殺現象の3次元的な磁力線構造の時間変化に焦点を当てて査読論文にする。次に、平成29年度の共同観測で得た磁束浮上領域中の磁束相殺現象に伴う彩層・コロナのダイナミクスに関する成果を、平成30年度前半に予定されている2件の国際学会で発表し、論点を整理した上で査読論としてまとめる。その後、平成29年度に取得した彩層上部の偏光データを用いて、高精度な3次元磁場構造の導出とその時間変化を重点的に研究することを計画している。 本研究で得られた科学成果を基に、米国国立太陽観測所が建設中の口径4mの超大型太陽望遠鏡「DKIST」のCritical Science Planとして、磁束相殺現象に関する提案を行った。今後はこれを具体的な初期観測提案へと昇華する必要がある。DKISTをはじめとした、次世代の太陽望遠鏡の最重要ターゲットも、太陽大気の3次元磁場構造である。磁束相殺現象に限らず、本研究で得られた貴重な共同観測結果を活用して、国内外を問わず次世代の太陽望遠鏡に向けた最適な観測提案を行い、より大きな科学成果へとつなげることが、本研究の計画当初からの推進方策である。
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Causes of Carryover |
平成29年4月-5月に実施した共同観測で磁気浮上領域で発生する磁束相殺現象を観測することに成功し、貴重なデータを取得した。その後の解析で、特にNASAのIRIS衛星のデータで磁束消失現象に伴う彩層・コロナのダイナミクスに関する興味深い結果を得た。その成果を平成29年度後半に国際学会で発表することを考えていたが、平成30年6月末にドイツで開催されるIRIS衛星の第9回科学会合で報告することが最も効果的だと考え、その旅費を平成30年度に繰り越すことにした。
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