2017 Fiscal Year Research-status Report
ALMA偏波観測で明らかにする低光度活動銀河核のブラックホール降着流
Project/Area Number |
15K17619
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
永井 洋 国立天文台, チリ観測所, 特任准教授 (00455198)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 活動銀河核 / ブラックホール質量降着流 / 電波観測 / ALMA / VLBI |
Outline of Annual Research Achievements |
【背景】本研究は、近傍の低光度AGNにおける質量降着流の性質を調べるべく、アルマ望遠鏡によるサブミリ波偏波観測によって、ファラデー回転の測定ならびにブラックホール質量降着率の推定を行う。理論的に予想される質量降着流モデルとの比較を行い、その実態に迫る。 【前年度までの成果】アルマ望遠鏡を用いて、全4エポックにわたって、近傍低光度AGNの代表であるCentaurus Aの観測を行った。予想に反して、偏波が検出されなかったものの、偏波率の上限値が0.1%という非常に強い制限を得ることができた。偏波率が非常に低いことの理由が、質量降着流に起因したファラデー消偏波だとすると、従来考えられてきた放射非効率な移流優勢円盤モデルの予測よりも高い降着率が実現されていることが示唆される。その一つの可能性として、移流優勢円盤と標準降着円盤の2種類の降着流が共存していることが考えられる。 【2017年度の成果】前年度に取得したアルマデータは、その後、観測時に発生していた技術的問題によって、慎重なデータ解析が追加で必要であることがわかった。これに時間を要するため、代替研究として、VLBI観測データを用いて、NGC1275の質量降着流を調べる研究を行った。NGC1275は、Centaurus Aと同様に、近傍低光度AGNの代表的な天体だ。本研究では、VLBI偏波観測データを用いて、ファラデー回転の測定を行い、Centaurus A同様、質量降着流の性質の調査を行った。この観測によって、NGC1275でも、単純な移流優勢円盤モデルでは説明不可能で、非一様な降着流が存在することを示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2016年度、アルマ観測所からのデータ提供が遅れたことで、全体的に研究に進捗が遅れていた。これに加え、「研究実績の概要」で述べたように、観測データ中に観測時の技術的問題が含まれていることがわかった。データ解析方法の工夫で解決できる問題と考えているが、解析方法を確立するために、深い考察と、慎重なデータ解析を行っており、当初の予定よりも時間を要している。一方で、この遅れを補うため、Centaurus A同様、近傍低光度AGNの代表であるNGC1275の観測データを解析し、降着流の性質を調査した。NGC1275では非一様な降着流が存在し、単純な移流優勢円盤では説明できないことを示した。この結果は、Nagai et al. 2017, ApJ, 849, 52で成果発表を行っていて、本研究課題の主要成果を公表することができた。また、本研究成果に基づき、アルマ・サイクル5/6の観測提案を行い、さらなる研究の発展に向けた準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
NGC1275は、銀河団中心に存在する巨大楕円銀河である。従来、このような銀河では、銀河全体を包むように存在している高温銀河団ガス(約1000万度)が、中心のブラックホールに向かって、ほぼ球対称に降着するため、低光度の移流優勢円盤を形成すると考えられてきた。しかし、実際には、この描像とは程遠く、非一様な降着流が存在することがわかった(Nagai et al. 2017)。最近の数値実験によると、銀河団中心においては、放射冷却が強く効くため、降着流が力学的に不安定になり、フィラメントやクランプを形成することが示唆されている。この結果、ブラックホールに向かって、冷たいガスの流れが支配的になるという予測がある。冷たいガスの流れは、アルマの分子ガス輝線の観測で測定することができる。これを実現するため、アルマ・サイクル5で観測提案を行い、提案が採択された。この観測によって、中心数10pcの領域で、HCO+/HCN分子ガスが存在することが判明し、ブラックホール周辺を回転する円盤を形成していることが明らかになった。この観測成果を、5月に行われる国際学会「Perseus in Sicily」にて発表を行う。さらに、サイクル6では、ブラックホールの重力圏(Bondi半径)を空間分解し、冷たい分子ガスがブラックホールに降着しうるかどうかを解明する研究を提案している。また、この研究を推進するための科研費基盤Cも採択された。
Centaurus Aのアルマデータについては、今年度中に成果をまとめ、国際学会・論文等で発表する予定である。
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Causes of Carryover |
本研究で用いる観測データの提供が、観測所の事情で遅れたことにより、当初予定していた研究計画に遅延が生じた。さらに、その後、観測データ中に技術的な問題が見つかり、この調査・修正のために時間を要している。また、2017年度、所属プロジェクトの職務に大きな変更が発生し、業務が多忙となった。以上の理由により、予定していた国際学会への参加ができなくなった。2018年度、本研究課題に密接に関係する学会への参加を予定することにより、本研究を完成させたいと考えている。
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Research Products
(6 results)