2017 Fiscal Year Research-status Report
空間的小スケールの原始密度揺らぎを制限する新手法の確立
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15K17632
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
須山 輝明 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (20456198)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 原始密度揺らぎ / 暗黒物質ミニハロー / 原始ブラックホール |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、共動波長にしておよそ1メガパーセクよりも短波長の原始密度揺らぎを制限する方法の一つとして、暗黒物質ミニハローに注目した。短波長原始揺らぎが、長波長揺らぎの振幅(約10万分の1)よりも仮に大きな振幅を持つと、そのような揺らぎの暗黒物質成分は早い段階で重力成長によって暗黒物質から成るコンパクトで密度が高いミニハローを作る。暗黒物質としては、有力候補の一つであるWIMP(weakly interacting massive particle)を仮定すると、ミニハロー内では暗黒物質同士の対消滅が効率的に生じ、ガンマ線・ニュートリノなどの高エネルギー宇宙線に転換する。この宇宙線のフラックスが観測値を超えてはならないという要請から、原始密度揺らぎの振幅に上限を課すことができる。 今回の解析の結果、幅広い揺らぎの波長に対して、相対揺らぎの振幅の上限として千分の1から一万分の1程度が得られた。これは既存の制限よりもかなり強いので、もし将来暗黒物質がWIMPだと確定すると、短波長の原始揺らぎ、即ちインフレーションモデルの絞り込みも大きく進展することを意味している。
また、原始密度揺らぎが極端に大きい領域は重力崩壊によって原始ブラックホールになる。このブラックホールが最近のLIGOで見つかった連星ブラックホールの起源であるという可能性が急浮上し、活発な議論が行われている。本研究では、連星を構成する個々のブラックホールに対する質量平面上での合体イベント数の分布関数を使うと、原始ブラックホール説を検証することが可能であることを指摘した。更に、今後の重力波観測で原始ブラックホールを検証する機運も高まってきていることを踏まえ、重力波天文学との関連に重点を置いた原始ブラックホールに関するレビュー論文を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の研究実績の概要で説明したように、短波長原始密度揺らぎを制限する新しい方法を確立し、それを既存の観測データに適用し具体的な制限値を導くという当初の目的に向けた成果を上げることができている。また最近のLIGOの重力波直接検出によって急浮上した原始ブラックホール説を検証するための研究も行った。短波長原始密度揺らぎが原始ブラックホールの起源であり、原始ブラックホールからも短波長原始密度揺らぎを制限できるためである。このように本研究は、最近の世界の最新研究結果を適宜取り入れつつ拡がりを持って発展しており、おおむね順調に進展しているという判断に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度の研究では、短波長原始密度揺らぎのパワースペクトルの形状として、ある単一の波長のみが非ゼロの値をとるデルタ関数の形を仮定した。これは方法論の有効性の実証という点と、観測的にも理論的にも未解明である短波長原始密度揺らぎのパワースペクトルの形状には標準モデルが存在しない点を踏まえると、最初の一歩としては妥当な仮定であるが、明らかに不完全である。今後は拡がりを持たせたより一般的な形状のパワースペクトルに対して、密度揺らぎの制限を課す。
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Causes of Carryover |
国際会議やセミナー等での研究成果の宣伝のために助成金を使用する予定であったが、急遽研究分野の総合報告論文の執筆依頼が舞い込んできた。総合報告論文の執筆は、当該研究分野への大きな貢献をするため非常に価値の高い仕事であると判断し、当該年度は出張を控え論文執筆に専念した。今年度は、これまでの研究成果を積極的に宣伝するため主に出張旅費に助成金を使用する計画である。
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Research Products
(13 results)