2015 Fiscal Year Research-status Report
ATLAS実験におけるヒッグス粒子とフェルミオンの結合定数の精密検証
Project/Area Number |
15K17633
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
増渕 達也 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 特任助教 (20512148)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | LHC / ATLAS / ミューオン / MPGD / ヒッグス粒子 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度, ATLAS検出器は世界最高重心系エネルギー13TeVの物理データを取得(Run2)した。LHCの稼働状況により当初の見込みより少ない約3.2/fbのデータが物理解析に使用出来た。標準模型ヒッグス粒子のボトムクォーク対崩壊モードの観測には取得データが足りないため, 当初の計画通り13TeVのデータの理解と標準模型を越える2HDMで予言される重いCP-oddヒッグス粒子(A)がZH→llbbに崩壊するモードの探索に焦点を当てて研究を進めた。標準模型からのずれは観測されないことを確認し, Aの質量が800GeV以上の領域では今までより厳しい生成断面積の上限値をつけることに成功した。 また, Run2のレプトントリガーの性能を評価し, 今後の高ルミノシティ環境でもZH→llbbの信号取得効率の低下を抑えRun1と同程度のパフォーマンスを保てることを示した。さらに, ヒッグス粒子から崩壊したジェット中のbハドロンがセミレプトニック崩壊した場合のミューオンを観測し, bジェット特有のエネルギーを適用することでヒッグスの質量分解能を10%向上させることに成功した。 主要背景事象であるZ+jetsのモンテカルロシミュレーション(MC)と2015年データを比較し, 今後使用されるMCパラメータの再チューニングでモデリングを改善出来ることを示した。これらの研究から背景事象の系統誤差が減少できる可能性を示せたことは, 今後の高統計データでヒッグス粒子がボトムクォークに崩壊するモードの初観測に向けたよい試金石となった。 さらに,将来の検出器アップグレードのため, 高ルミノシティでの背景事象環境に強い, 250umピッチで2次元読み出しが可能なマイクロメガス検出器の設計・試作を行った。従来の検出器で使用していた材料も見直し, アウトガスが少ない材料を用いて検出器の動作確認を行い, より詳細な性能が測定できる状態に到達できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画どおり, データの蓄積がボトムクォーク対に崩壊する標準模型ヒッグス粒子の発見感度に到達しなかったため、2015年の重心系エネルギー13TeVの実データを用いて, Run2でアップグレードされた検出器とレプトントリガー, bジェット再構成アルゴリズム, そしてZH→llbb解析で重要な背景事象であるZ+bb, ttbarの理解に重点を置いて研究を進めることが出来た。 解析手法が標準模型ZH→llbb解析と同様の2HDMのベンチマークシナリオであるA→ZH→llbb探索で13TeVデータを用いた初の物理結果を公表することに成功した。この解析を通して, ZH→llbb信号のトリガー性能の評価やヒッグス質量分解能の改善手法を確立することが出来た。これらの成果は平成28年度の標準模型ヒッグス粒子のボトムクォーク対崩壊モード観測にも重要な研究であり, データを用いて有効性を確認できた事は, 今後の研究に重要な指針を与えた。また, 背景事象の理解も2015年の重心系エネルギー13TeVの実データでモンテカルロシミュレーションのミスモデリングを評価し, モデリングを改善出来ることを確認した。これらの背景事象の系統誤差が重要になる, 平成28年度以降の高統計データに対して改善されたシミュレーションを用いることが出来るのは発見感度向上に重要であると考える。 また, 初めて2次元読み出しのマイクロメガス検出器を作製し, 検出器を動作させるところまで到達した。今後, ビームテストや高ヒットレートの放射線環境下での動作試験でさらに詳細な検出器性能を測定できるところまで研究を進めることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度, LHCは13TeVの陽子陽子衝突実験を続け, ATLASは約20/fbのデータを取得する予定であり, 標準模型ヒッグス粒子のボトムクォーク対崩壊モードの初観測の期待が高まる。平成27年度にA→Zh→llbbベンチマークモデルを用いて最適化した事象選択をベースに, 標準模型ヒッグス粒子の発見感度を向上させるため, llbb終状態特有の運動学的情報を用いてヒッグス粒子の質量分解能の向上, 標準模型ヒッグス粒子生成崩壊の行列要素や他の運動学的情報を用いた多変量解析の最適化をすすめ, 発見感度の向上を計画している。 また, 13TeVの高統計データ取得が見込まれる平成28年度は, 標準模型を越える新物理探索の感度が大幅に向上する。平成27年度に行った2HDM A→Zh→llbb解析の経験を元に, 終状態がllbb(qq)の標準模型を越える重いダイボソン共鳴状態の探索も行う予定である。 平成27年度に作製した検出器の性能を宇宙線やγ線, 中性子照射施設などを用いて詳細に調べる事を緊急課題とし, これらの測定で得られた知見を元に, 次の検出器製作で改善点を設計に盛り込み, HL-LHC環境で動作し要求性能を満たす検出器の製作を続けることを計画している。
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Causes of Carryover |
新しい検出器の製作が予定より少し遅れたので, 検出器アセンブリに使用される部品のうち, 既に現在までの研究で再使用できる部品の選定を次年度に繰り越したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
小額の繰越なので前年度の予定通り, 現在再使用している部品で改善できる材料の選定を進め, 発注を速やかに行う。
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