2016 Fiscal Year Research-status Report
ATLAS実験におけるヒッグス粒子とフェルミオンの結合定数の精密検証
Project/Area Number |
15K17633
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
増渕 達也 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 助教 (20512148)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | ヒッグス / LHC / ボトムクォーク / ガス検出器 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒッグス粒子がボトムクォークに崩壊するモードをベクターボソン随伴生成過程で探索しRun2の13TeV、13.2/fbのデータを用いた結果を初めて公表することに成功した。LHC・ATLAS実験のデータ取得が2016年前半は当初の予想より少なかったため、標準模型で予言されるボトムクォークに崩壊するヒッグス信号の発見感度は1.9σに到達するにとどまり、実際の観測は0.4σという結果を得た。まだデータ量が少なくヒッグス粒子がボトムクォークに崩壊するモードの発見には至っていないが、この解析を通じて、Run2におけるトリガーや粒子同定、事象選択の最適化を行う事が出来た。さらに、データと背景事象のモデリングの問題点の知見が得られ、今後の高統計データの解析において影響が大きい系統誤差を精査し、ボトムクォーク崩壊モードの初観測に向けて改善すべき点を明かにすることが出来た。Run2,2016年までのデータ36.1/fbを用いて系統誤差を減らし発見感度を向上させる研究が進んでおり、発見感度が3σ程度に到達することが期待される。 また、ヒッグス粒子がミューオンに崩壊するモードの探索も36.1/fbのデータを用いて探索結果を公表した。標準模型の2.8倍の断面積まで棄却しヒッグス粒子と第2世代であるミューオンとの結合定数は、標準模型と矛盾がない結果を得ることに成功した。 さらに、前年度製作した2次元読み出しマイクロメガス検出器の動作・データ取得に初めて成功した。レジスティブ層と垂直方向の読み出しで電荷の拡がりから予想される特徴的な分布も観測された。1層のマイクロメガスで、初めてミューオンの飛跡を2次元的に観測する事に成功し、学会で報告した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒッグス粒子がボトムクォークに崩壊するモードを用いた解析ではRun2の13TeVの2016年夏までのデータを用いた結果を初めて公表することに成功した。まだ発見感度が足りないため、2016年までの全データを用いた解析が進行中であり、前回の解析で大きかった系統誤差を低減するための解析手法の改善が進んでいる。Run2,2016年までのデータ36.1/fbで発見感度が3σに到達することが期待される。またRun1の結果も使うことによりさらに発見感度のさらなる改善が見込まれることも分かってきており、4σ以上の発見感度がRun1+Run2のデータで得られる可能性がある。 27年度に初めて製作した2次元マイクロメガスの動作確認・信号読み出しに時間を要したが、信号の観測までこぎつけることが出来た。現在、レジスティブ層の抵抗値とY方向の読み出しの電荷拡散の最適化が進行中である。 また、新しいマイクロパターンガス検出器の設計計画も進んでいる。製造手法や設計に時間を要したが、ほぼ開発方針も固まり、製造コストを下げる事が可能になってきた。もう少しで製造に進める段階まで到達している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、2016年まで記録した13TeVの36.1/fbの高統計データを用いてヒッグス粒子がボトムクォークに崩壊する信号の世界初観測を目指す。2016年夏に公表した13.2/fbの解析に基づいて大きな系統誤差であったW/Z+ジェット、トップ背景事象のモデリングの誤差を削減するための改良をおこなっている。また、Run1のデータも統合して発見感度を向上させることを計画しており、ヒッグス粒子がボトムクォークに崩壊するモードが標準模型通りであれば、Run1+Run2で4σを越える発見感度に到達する見込みである。平成29年度の夏までに学術論文を投稿する予定である。 また、ベクターボソンとヒッグスに崩壊する共鳴状態の新粒子探索も行っており, 直接探索から標準模型を越える物理の可能性も探る方針である。
検出器開発は前年度から新しい検出器の設計/製作を進めており、29年度初頭に最初の試作機が完成する見込みである。新しい検出器はマイクロメガス検出器を製作した経験から、今後高エネルギー実験で使う上で重要な、大型化での製造手法を容易にするための設計も考えており、29年度に完成する新しいマイクロパターンガス検出器の性能評価を進めていく。また、飛跡再構成性能や高放射線環境下での動作試験を進めていく予定である。
|
Causes of Carryover |
新しいマイクロパターンガス検出器の設計が遅れており、28年度に製造を完了させることができなかったため。また、製造過程でコストダウンをする方策も考えており、計画より多くの検出器を作れる可能性が出てきたため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
新しいマイクロパターンガス検出器を製作する計画は変わっておらず29年度初頭に製造を始められる予定である。
|