2015 Fiscal Year Research-status Report
チャームに拡張されたマルチフレーバー原子核構造とヘビークォーク対称性
Project/Area Number |
15K17641
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
安井 繁宏 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (00535346)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | チャーム / ボトム / エキゾチックハドロン / 原子核 / 近藤効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
最近のチャーム/ボトムフレーバーにおけるエキゾチックハドロンは、ハドロン間相互作用が多様なハドロン複合状態の起源であることを示唆している。本研究は、ハドロン-核子相互作用を考えて、チャーム/ボトム原子核の性質を理論的に予言することを目的とする。この研究によって、原子核の新しい存在形態(ストレンジネスからチャーム/ボトムへの拡張)を探ることができる。
従来の研究ではチャーム/ボトムハドロン(反D中間子/B中間子)と核子の間の力ははアイソスピン依存性をもっていることが知られていた。一方で、反D中間子/B中間子が不純物として核物質の中に存在するときに「アイソスピン近藤効果」が生じて、不純物と核子が束縛した「近藤状態」が基底状態として存在することが予想されていた。当該年度において、チャーム/ボトム原子核における「近藤状態」を解明するために、離散的エネルギー準位をもつ有効ハミルトニアンによる解析を行った。一般的な有効ハミルトニアンについて数値解を求めることは容易ではない。そこで本研究では「平均場近似」を導入して、この近似の妥当性を検証した。
本来、アイソスピン近藤効果においては、反D中間子/B中間子と核子の相互作用はアイソスピンの反転を伴うために、単純には平均場を適用することができなかった。そのために、「擬フェルミオン」を新たに定義して平均場近似を導入した。また、平均場近似の妥当性を確認するために、平均場まわりの量子揺らぎを乱雑位相近似(RPA)によって評価した。この2段階法によって、近藤状態における束縛エネルギーを求めた。平均場近似+RPAと厳密解を比較することによって、前者は後者のおよそ90%程度再現することが確かめられた。したがって、平均場近似+RPAは良い近似であることがわかった。より一般的な有効ハミルトニアンに対しても十分有効な近似であることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
アイソスピン近藤効果はモデルにあまり依存することなく成り立つ普遍的な現象である。したがって、アイソスピン近藤効果の性質について、モデルの詳細に依存せずに一般的な枠組みの中で議論することは極めて重要である。当該年度の研究においては、アイソスピン対称性に着目して、アイソスピン近藤効果を解析する手段としての「平均場近似」および「乱雑位相近似」の有効性に焦点が当てられた。その結果、チャーム/ボトムハドロンについてのいくつかの重要な性質をすべて盛り込むことができなかった。とくにアイソスピン対称性以外の対称性としてカイラル対称性や重いクォーク対称性を取り込むこと、および関連する事項としてチャーム/ボトムハドロン-核子相互作用のカイラル理論、反D中間子と反D*中間子(B中間子とB*中間子)の近似的縮退の取り扱いなどが今後の課題として残されている。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度の研究成果によって、有限体積の原子核におけるアイソスピン近藤効果を取り扱う理論的基礎付けを与えることができた。今後は、カイラル対称性や重いクォーク対称性を取り込んでチャーム/ボトムハドロン-核子相互作用のカイラル理論を構築し、反D中間子と反D*中間子(B中間子とB*中間子)の近似的縮退を考慮して近藤束縛状態のエネルギースペクトラムを議論する予定である。また重いクォーク対称性の高次の項として、1/M展開(Mは重いハドロンの質量)および核物質内部のチャーム/ボトムクォーク-グルーオン相互作用の変化の解析を続けて行う予定である。この研究計画の遂行によって、アイソスピン近藤効果というハドロン/原子核の現象論からチャーム/ボトムクォーク-グルーオン相互作用という量子色力学の基本問題までをカバーする極めてユニークな理論的枠組みを初めて与えることができるだろう。
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Causes of Carryover |
当該年度は、研究成果が十分に出ていなかったために海外の国際会議の参加や研究のための議論を行うことが十分できなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、当該年度の研究成果をもとにして積極的に海外での発表や他大学・研究機関との交流を行う予定である。
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Research Products
(6 results)