2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K17643
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
森田 健 静岡大学, 理学部, 講師 (40456752)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | CS理論 / 行列模型 / カオス / 流体力学 / ホーキング輻射 / ブラックホール / 非平衡物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は1.「CS型行列模型における非摂動効果」、2.「半古典論領域におけるカオス限界仮説」という2つの研究を中心に行った。以下でそれぞれを簡単に説明する。 1.CS型行列模型とは、超弦理論のある状況下における低エネルギー有効理論である。特にこの模型は比較的解析が容易なことから、近年盛んに研究され、弦の様々な性質が解明されつつある。本研究では、CS型行列模型にこれまで知られていなかった無数の古典解の存在を示し、さらにいくつかの解を具体的に構成した。 (なお本研究以前はCS型行列模型にはたった1つの解しか知られていなかった。) 一般に行列模型の古典解は、系の状態に対応することから、本研究により、CS型行列模型が記述する系は、無数の状態が存在する非常に豊富な系だと言うことが解明された。 2.カオス限界仮説とは「有限温度における量子系のバタフライ効果に上限がある。」という仮説で2016年にMaldacenaらによって提唱された。この仮説を認めると、「有限のバタフライ効果のある量子系では温度に下限が存在する。」とういう主張が成立する。バタフライ効果は古典的力学ではゼロ温度でも起こると考えられていたので、この主張を信じると、何らかの機構で古典的にゼロ温度の系が量子論的に有限温度になることを意味する。本研究では古典カオス系の簡単な模型を半古典論領域で解析し、実際に古典カオス系が量子論的に有限温度状態と見なせることを示した。またこのようなカオス系における熱励起が、ブラックホールの蒸発現象(ホーキング輻射)と密接な関係を持つことも示した。これはカオスという自然界にありふれた現象とブラックホールが関係することを示唆する重要な結果である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では平成29年度は「ブラックホールの情報喪失問題」及び「非平衡相転移現象」の研究を中心に行う予定であった。しかし、実際に進展が多くあったのは研究実績で述べた「CS型行列模型における非摂動効果」及び「半古典論領域におけるカオス限界仮説」の研究であった。 「半古典領域におけるカオス限界仮説」の研究は、「ブラックホールの情報喪失問題」とも密接に関連した研究で、ここで当初予期していなかった進展が得られたのは、今後、ブラックホールの情報喪失問題の研究を行う上でも、重要なステップだと考えられる。 一方、「非平衡相転移現象」に関しては、研究協力予定であったSumit Das氏と何度か研究打合せを行ったものの、そこまで進展が得られなかった。 その反面、「CS型行列模型における非摂動効果」の研究という当初予定になかった研究が順調に進み、大きな成果が得られた。 それらを総括すると、おおむね順調に進展していると考えることができる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度に「半古典論領域におけるカオス限界仮説」の研究で大きな成果が得られた。この研究成果は現在論文に投稿中で、平成30年度中の出版を見込んでいる。ここで得られた成果は、平成28年度研究計画にあった「BPS粒子を用いたブラックホール熱力学」や平成29年度研究計画にあった「ブラックホールの情報喪失問題」の研究に応用することで、非常に大きな進展が期待できる。そのためこの問題を中心に研究を行っていく予定である。 また現在、「ゲージ・重力対応を用いたQCDの解析」や、「非平衡相転移現象」、「可積分系における熱平衡化過程」、「CS行列模型の非摂動効果」の研究などを研究協力者と進めており、これらに関してもできる限り完成させていきたい。
|
Causes of Carryover |
海外の研究協力者が別件で訪日する機会に恵まれ、当該研究費で招聘せずに済んだ。その分、平成30年度に研究協力者を招聘、またはこちらから渡航する回数を予定より増やすことで、研究をより積極的にすすめていく計画である。
|
Research Products
(11 results)