2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K17666
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
深尾 祥紀 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助教 (80443018)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ビームモニター / パルスミューオンビーム / 精密測定実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、パルスミューオンビームを用いた基礎物理の精密測定実験における、ビームモニター検出器の開発である。平成27年度では、以下の事項を実施した。(1)J-PARCのミューオンビームの強度、エネルギー、サイズなどの特性をもとにビームモニター検出器のデザインを行った。(2)シミュレーション等を援用して検出器の性能を評価し、十分な性能が期待されることを確認した。(3)ビームモニター検出器の小規模のプロトタイプを制作し、ベータ線源、ビームを使用して性能を評価した。検出器としては、ビームをかく乱しないため、能な限り薄く作る必要がある一方、ビームの強度を精度よく測定できるだけの十分な信号量(光量)が得られなければならない。評価の結果、期待される性能が実現できていることを確認した。(4)プロトタイプの評価結果をもとにビームモニター検出器の実機を制作した。検出器はシンチレーションファイバー、半導体光検出器、信号を転送するための電子回路によって構成されている。(5)平成28年2月にJ-PARC MLFのミューオンビームを利用し、ビームモニター検出器の性能を評価するとともにビーム特性の測定を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の進捗はおおむね順調である。平成27年度には、ビームモニター検出器の設計を行い、要素開発を行う計画であった。検出器は100ミクロンの太さの極めて細いシンチレーションファイバーを一列に並べて薄く作ることで、ビームに対しる撹乱を可能な限り低減する。このような方法で検出器を形成することは過去になかったため技術的な困難が予想されたが、試行錯誤の末に制作に成功した。シンチレーションファイバーとビームとの反応によって発生した信号光は浜松ホトニクス社製の半導体光検出器MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)を使用して電気信号として読み出し、後続の電子回路によって信号処理する。MPPCは印加電圧、周囲の環境ノイズ、温度など従来の光電子増倍管と比べてより精確な調整が必要である。ビームモニター検出器は多数のチャンネルから成るため、調整に時間がかかるが、系統的に取り扱う手法を確立した。また、MPPCは微小な電気素子であるため、細いファイバーとの物理的な接続についても、信頼性のある方法を開発した。上記の開発については小規模なプロトタイプを制作して行った。 ビームモニター検出器の実機の開発及びミューオンビームを使用しての実験は平成28年度に行う予定であったが、研究の進捗が順調であり、また、幸運にもビーム実験を行う機会があったため、平成27年度に前倒しして行った。ビーム実験は平成28年2月に行い、無事に検出器が稼働し、ビームの特性を測定できることを確認した。現在、詳細なデータ解析中である。一方、検出器の温度管理システムの構築は未達成であり、平成28年度に行う計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度には、ビームモニター検出器の実機の制作まで行い、ビームを使用しての性能評価実験を行った。平成28年度では、ビーム実験の詳細なデータ解析、検出器の温度管理システムの構築、精密測定実験(MuSEUM実験)での使用を計画している。 平成27年度に行ったビーム試験では、J-PARC MUSE Dラインのミューオンビームを使用して検出器の性能を評価し、同時にビームの特性(サイズ、強度)を測定した。実験中でのオンライン解析では、検出器は十分な性能を持っていることが分かり、ビーム特性についても測定可能であることを確認した。現在、さらに詳細なデータ解析を進めている。 検出器のシンチレーションファイバーによって生成される光信号は半導体光検出器であるMPPCを使用して電気信号に変換している。MPPCの性能は周囲の温度に敏感で、信号の増幅率、ノイズ量などが温度によって変動する。ビームモニター検出器の用途の一つにビームの安定性の測定があるが、寒暖によって検出器の性能が変動することは望ましくない。この問題を解決するために検出器の温度管理を行う必要がある。方法としては検出器全体を箱に収納し、その内部を小型のチラーによって一定の温度に保つ。また、データ収集後の信号量の補正に用いるため、箱内部の温度を記録しておく。 本研究のビームモニター検出器は、J-PARCで計画されているMuSEUM実験(ミューオニウムの超微細構造の精密測定実験)での使用が用途の一つとしてある。MuSEUM実験は将来建設されるJ-PARC MUSE Hラインで実施される計画であるが、平成28年度に既存のDラインにおいて準備実験を行う予定である。この実験においてもビームモニター検出器を使用し、ビーム特性の測定によって、MuSEUM準備実験に貢献する。
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Causes of Carryover |
平成27年度ではビームモニター検出器の設計及び要素開発を行う計画であったが、研究の進捗状況、J-PARC加速器の運転状況から、研究を前倒して進める計画に変更し、それに伴い次年度予算の前倒し請求を行った。それにより当初平成28年度に計画していた検出器の実機制作を平成27年度に行ったが、J-PARCのビームタイム割り当ての時期により、制作、購入の納期が間に合わなかった物品について現在、代用物を借用、または開発を平成28年度に遅らせることとした。そのため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
シンチレーションファイバーからの光信号を受ける半導体光検出器MPPC、MPPCからの電気信号を増幅・整形するための電子回路を借用しているため、それらを購入する。検出器の温度管理システムについては平成27年度には達成できなかったため、平成28年度に行う。そのための検出器を収納するシャシー、温度を一定に保つためのチラーを購入する。また、平成28年度にはJ-PARC MUSE Dラインで計画しているMuSEUM準備実験において、本研究のビームモニター検出器を投入する。そのための検出器取り付け治具、ケーブルの改変などに予算を使用する。
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