2016 Fiscal Year Research-status Report
時間分解及びスピン分解光電子分光による表面一次元金属電子のスピン物性研究
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15K17675
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
矢治 光一郎 東京大学, 物性研究所, 助教 (50447447)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 電子スピン物性 / スピン軌道相互作用 / 固体表面 / 光電子分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,強いスピン軌道相互作用によりスピン偏極した電子状態を対象としたスピン物性研究が盛んに行われている。固体表面においてスピン軌道分裂した電子状態のスピンテクスチャは,電子の運動量にロックされているというのがスタンダードなモデルである。しかしながら,最近,スピン軌道分裂電子状態のスピンは軌道成分と結合していることが指摘された。他方,表面一次元電子系では,パイエルス不安定性や朝永-ラッティンジャー液体状態の出現によりそのフェルミ面は不安定化する。強いスピン軌道相互作用によりスピン縮退が解けた系におけるフェルミ面不安定化のメカニズムは興味深い。本研究では,高度な固体表面試料作成技術と高精度スピン分析技術を融合させて,表面一次元電子系をはじめとした表面電子系の特異な電子スピン物性を解明することを目的としている。 本研究課題は,我々が開発したレーザー光励起三次元スピン分解光電子分光(laser-SARPES)装置と固体表面試料作成装置を用いて行われている。我々のlaser-SARPES装置は,世界最高分解能を有しており,微小なスピン分裂を観測することが可能である。平成27年度は,重元素をのみに注目した研究であったが,平成28年度は銅や銀などの比較的軽い元素で構成される固体表面のスピン軌道相互作用によってスピン偏極した表面電子状態について,laser-SARPESを用いて,スピンに依存した電子構造を精密に調べた。また,偏光依存三次元SARPESの精密測定により,光スピン制御の基本概念を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
表面一次元系の研究では,白金原子をゲルマニウム基板上に微量蒸着することにより作成した表面一次元原子鎖試料を作成し,その電子状態を調べた。放射光を用いた角度分解光電子分光(ARPES)から,いくつかの表面電子バンドがあることが明らかにされていたが,それらのうちの一つは,理想的な一次元金属として振舞うことがわかっていた。そこで,本研究では高分解能laser-SARPESを用いて,この一次元バンドがスピン偏極しているかを調べた。しかしながら,このバンドにはスピン偏極は観測されなかった。また,高分解能laser-ARPESを用いて,一次元金属バンドのフェルミ準位近傍の状態密度の精密測定を行い,ラッティンジャー液体実現の可能性について考察した。 平成28年度には,スピン軌道分裂表面電子状態のスピン-軌道テクスチャに関する研究も行った。本研究では,ビスマス単結晶をはじめとする様々なスピン偏極表面電子状態について,偏光依存laser-SARPESを行った。その結果,一般論として,スピンは鏡映面垂直方向を向き,軌道の対称成分と非対称成分が互いに反対向きのスピンと結合していることを明らかにした。また,直線偏光の電場ベクトルを鏡映面に対して回転させると,鏡映面上のスピン偏極電子状態であっても,光電子には鏡映面垂直方向以外にもスピン偏極成分が現れることを発見した。入射直線偏光の電場ベクトルの回転に対して,放出される光電子のスピンがどのように応答するかを定式化し,光スピン制御の基本概念を確立した。 また,高分解能laser-SARPESを用いて,スピン軌道分裂を示すことが理論的に予想されていた銅や銀表面のスピン分裂表面電子状態の研究も行った。実験的に貴金属表面にもスピン偏極した電子状態が存在していることを解明し,スピン分裂エネルギーの大きさとスピン偏極度について定量的な議論を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は,表面一次元電子系のスピン構造を調べるというものである。しかしながら,研究を進めていく中で,研究の対象を表面一次元系に限定してしまうのではなく,強いスピン軌道相互作用を示す表面電子のスピン物性という包括的な枠組みで研究を行うことが重要であることがわかった。平成29年度も,固体表面のスピン偏極電子バンドのスピン軌道テクスチャについての研究を行う。 最近の我々の研究によると,SARPESで観測される光電子のスピンは,そのまま始状態のスピン構造を反映するわけではなく,光電子分光の実験配置や入射光の偏光に大きく依存することがわかってきた。光電子スピンの光応答に関する基本原理は平成28年度までで解明されたが,光の入射角度や円偏光励起した場合に,光電子スピンがどのように振る舞うかの詳細は未解明である。これらは光電子分光という実験手法に関する研究であるが,始状態に関する真の情報を正しく理解するために,スピンに依存した光電子放出の研究は必須である。ここで明らかにされた光電子分光に関する知見を基に,固体表面の電子物性研究を展開する。 また,本研究課題では,時間分解SARPESを行うことも目標としている。平成28年度はビスマス薄膜の時間分解ARPESを行い,その論文が出版された。平成29年度は,時間分解SARPESに向けた装置開発を開始する予定である。当初の研究計画では平成29年度には時間分解SARPESを行う予定であったが,この部分は当初の計画より遅れており,スピードアップして研究を行いたい。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では,海外の放射光施設へ出張実験を行うことを予定しており,そのための経費を計上していた。しかしながら,我々の開発したスピン分解光電子分光装置が非常に高性能なものになり,海外で実験をするよりも良質な実験データが私が所属する東京大学物性研究所で取得できるようになった。したがって,本研究を遂行するにあたり,海外へ出張実験に行く必要性がなくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
この予算は,学会参加のための旅費として使用する予定である。本課題研究において,非常に多くの先端的な成果が得られている。これらの成果を学会において口頭発表し,研究者コミュニティーに広く周知することを目的とする。
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Research Products
(17 results)
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[Journal Article] Topologically entangled Rashba-split bands on the grey arsenic surface2017
Author(s)
Peng Zhang, J.-Z. Ma, Yukiaki Ishida, Q.-N. Xu, B.-Q. Lv, Koichiro Yaji, L.-X. Zhao, G.-F. Chen, H.-M.Weng, X. Dai, Z. Fang, X.-Q. Chen, L. Fu, T. Qian, H. Ding and Shik Shin
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Journal Title
Physical Review Letters
Volume: 118
Pages: 046802-1-5
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant
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[Journal Article] Observation of spin-polarized bands and domain-dependent Fermi arcs in polar Weyl semimetal MoTe22017
Author(s)
M. Sakano, M. S. Bahramy, H. Tsuji, I. Araya, K. Ikeura, H. Sakai, S. Ishiwata, K. Yaji, K. Kuroda, A. Harasawa, S. Shin and K. Ishizaka
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Journal Title
Physical Review B
Volume: 95
Pages: 121101-1-6
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Spin texture in type-II Weyl semimetal WTe22016
Author(s)
Baojie Feng, Yang-Hao Chan, Ya Feng, Ro-Ya Liu, Mei-Yin Chou, Kenta Kuroda, Koichiro Yaji, Ayumi Harasawa, Paolo Moras, Alexei Barinov, Walid Malaeb, Cedric Bareille, Takeshi Kondo, Shik Shin, Fumio Komori, Tai-Chang Chiang, Youguo Shi and Iwao Matsuda
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Journal Title
Physical Review B
Volume: 94
Pages: 195134-1-5
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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