2015 Fiscal Year Research-status Report
広帯域波長可変fsレーザーによる時間,空間,エネルギー分解光電子顕微鏡の開発
Project/Area Number |
15K17677
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
福本 恵紀 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 研究員 (20443559)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 超高速現象 / 光電子顕微鏡 / 半導体光物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
太陽電池やトランジスタに代表される半導体デバイスの動作性能は,キャリアの動的特性が深く関係している.研究代表者は,フェムト秒レーザーを利用した時間分解光電子顕微鏡(TR-PEEM)を立ち上げ,高い時間・空間分解能(100 fsと50 nm)を両立して,半導体中の光キャリアの動的観測に初めて成功している.しかし,キャリア励起するためのレーザーパルス(ポンプ光)のエネルギーは,パルスレーザー源の基本波である1.2 eVとその第二次高調波である2.4 eVに制限されているため,測定や試料選定に制限があり,また,キャリアダイナミクスを詳細に説明することが困難であった.そこで,本申請研究では,ポンプ光の波長を幅広いエネルギー領域で可変にすることで,幅広い試料への適用,また,欠陥準位を介したダイナミクス観測を目的とした. 本申請研究の基盤となる成果は, GaAs表面のナノスケール構造欠陥中の欠陥準位を介した超高速再結合過程の観測に成功したことである(Fukumoto et al., Review of Scientific Instruments 85, 083705 (2014)).さらに,データ解析を進めることで,欠陥ごとにキャリア寿命が異なることを見出し,その時定数からそれぞれの欠陥の欠陥準位密度の見積もりを行った.この成果は,Fukumoto et al., Applied Physics Express 8, 101201 (2015)に掲載されており2015年のSPOT LIGHT論文に選ばれた. 申請研究開始と同時期に申請者が異動したため(東京工業大学から高エネルギー加速器研究機構へ),研究を迅速に遂行するためTR-PEEM装置の移設から開始した.このため,研究費の一部を移設費用に充てた.初年度(平成27年度)に計画していた,既存の波長変換器(OPA)を利用して広エネルギー領域を連続的に選択できる波長可変システム構築は順調に進み,PC制御による光電子顕微鏡の操作だけでなく,波長変換に必要な9つのモーター制御システムがほぼ完成した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者が,初年度4月に異動したこともあり,波長変換システムの構築に遅れが生じたが,初年度に予定していたOPAを利用した波長変換システムの構築は完了し,実際の測定が始まっている. 初年度では,波長帯域を800 nmから2600 nmまで拡張する予定であったが,この波長域を選択した理由は,GaAsに存在する中間準位を介した再結合過程をTR-PEEMで解明することを目的のひとつとしていたためである.しかし,本申請研究で得られた成果を公表する過程で,複数の半導体メーカーからワイドギャップ半導体への応用を期待された.実際,共同研究を開始している.この経緯があり,波長域がバンドギャップを超える3.5 eVの高エネルギー側も発振できるように改良した.現状で,350 nmから2600 nmまで可変となっている.高空間分解能での測定には至っていないものの,SiCと並び開発が期待されているGaNのキャリアダイナミクスを観測できており,本申請研究はおおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度(平成28年度)は,完成した装置を利用して実際の測定を遂行する.測定対象としては,これまでに測定実績がある,グラフェンやとトポロジカル絶縁体などの2次元物質やワイドギャップ半導体を想定している.グラフェンにおいては,局所的に2原子層になっている領域は,1原子層領域と比較してキャリア寿命が長くなることを示唆する結果が得られており,高い時間空間分解能にエネルギー分解能を付与する.なお,2次元物質に関する研究は,フランスのマリー・キュリー大学のBoutchich准教授との共同研究である. GaNなどのワイドギャップ半導体デバイスは,スマートグリッドを利用した低炭素化社会の実現やIoT社会に貢献すると期待されている.そこで問題となるのが,デバイスの特性に大きく影響する欠陥特性を制御することであり,本申請研究の次年度は,ワイドギャップ半導体の欠陥特性解明にも注力する.これまでの予備的な測定から光キャリアの寿命測定に成功しており,これまで不可能と考えられていた局所的に存在するナノスケール構造欠陥のキャリアダイナミクスを選択的に観測する.
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Causes of Carryover |
本研究費交付開始時期に,研究代表者が東京工業大学から高エネルギー加速器研究機構に異動したことにより,装置の移設が必要となったため、前倒し申請をした。しかし、次年度の予算執行を考慮し、経費の節約したため、次年度に繰り越し額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究費で得られた成果を発表するための旅費に充てる。
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