2015 Fiscal Year Research-status Report
電流ゆらぎ測定を用いたスピン流の緩和ダイナミクスの解明とその制御
Project/Area Number |
15K17680
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
荒川 智紀 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (00706757)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 物性実験 / メゾスコピック系 / スピンエレクトロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、物性物理において、伝導電子のスピンの自由度に起因するスピン依存伝導現象の研究が世界的に行われている。特にスピン流は基礎物理、次世代デバイス開発の双方の観点から注目されている。本研究の目的はスピン流の非平衡緩和現象の解明とその制御である。独自に構築した高精度の測定系を用いてスピン流に伴う電流ゆらぎを測定し、定量的な非平衡状態の評価を行うことを目指した。当該年度において、スピンバルブ素子を用いたスピン流の生成と検出の精密測定を行った。特に、オフセット電圧と呼ばれる磁化の平行状態と反平行状態とでスピンの信号が異なって現れる現象に着目し、半導体や金属中でのスピン緩和について考察した。平行して、非平衡スピンが現れる典型例としてバイアス印加された量子ドットにおける近藤状態やコトンネリング現象に注目し、詳細な実験と解析を行った。近藤効果が起こっている量子ドットは低温では局所フェルミ流体状態が実現することが知られている。そして局所フェルミ流体の残留相互作用により、倍電荷を有した準粒子対が非平衡電流中に形成し電流雑音が増幅する。このことを実験的に検証することに成功した。この成果は、2016年3月にNature Physics誌に出版されたが、この成果においては、代表者が中心的な役割を果たして構築した高精度雑音測定系が大きな役割を果たしている。さらに、コトンネリングによる電流と電流揺らぎについては、実験結果と理論を詳細に比較検討し、半定量的な説明が可能な段階にまで到達した。この他にも、グラフェンにおける抵抗揺らぎの詳細な解析を行い、電子ホールパドルと言われる、グラフェン特有の電子状態のダイナミクスに関する新たな知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
近藤状態の非平衡ダイナミクスを解明できたことは極めて優れた学術的成果である。この成果は、非平衡スピン輸送を微視的に定量化する、という本研究計画の目的に合致するものであると同時に、物理学のトップジャーナルであるNature Physics誌に掲載された。電子ホールパドルと言われる、グラフェン特有の電子状態の非平衡ダイナミクスに関する新たな知見を得たことも大きな成果である。以上のことから、当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題が昨年度当初の計画以上に進展したことから、今後もこのペースを維持した状態で当初の計画に沿って研究を遂行する。
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Remarks |
1.受賞 平成27年12月14日、第32回井上研究奨励賞(受賞者:荒川智紀)受賞者の博士論文「微小接合系におけるスピン依存伝導のダイナミクス」が高く評価され受賞に至った。 2.アウトリーチ:「磁石であそぼう」(平成27年度いちょう祭、2015年5月1日-2日、大阪大学豊中キャンパス)
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