2015 Fiscal Year Research-status Report
電荷秩序系分子性導体の局在した電荷がもたらす非線形・巨大電場応答のプロセス解明
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15K17688
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
伊藤 桂介 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (10733256)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 赤外分光 / 分子性導体 / 金属-絶縁体転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、近赤外~可視領域の顕微分光系の構築と、θ系BEDT-TTF塩の中赤外領域での顕微分光測定を行った。まず、近赤外~可視領域の光学反射スペクトルを測定するため、赤外顕微対物レンズを用いた可視赤外顕微システムを構築した。光学系の収差理論値およびイメージング実測値から、可視~近赤外の広い領域にわたって、2 μm以下の空間分解能で光学スペクトルを取得することが可能となった。これにより、従来所有している中赤外顕微装置とあわせ、光学領域全体における低温(>4 K)顕微分光測定が可能となった。θ-(BEDT-TTF)2TlZn(SCN)4(以下θ-TlZn塩)の赤外顕微分光測定を行った。本物質は強い非線形性と冷却速度依存性を持つため、赤外分光測定は抵抗値をモニターしつつ行った。その結果、θ-TlZn塩における金属絶縁体転移に伴い、BEDT-TTF分子の価数に敏感なν3モードの強度が大きく変化することを見出した。さらに、高輝度放射光施設SPring-8の赤外ビームライン(BL43IR)を利用した赤外顕微分光により、ν3モードの強度をプローブとして空間分解イメージングを行ったところ、転移温度近傍で金属相と絶縁体相の相分離と思われる空間イメージを取得することに成功した。θ系BEDT-TTF塩bにおいては近年、冷却条件によって長距離秩序を持たない電荷グラス相(電荷の不均一)へと至ることが指摘されており、本研究で見出した相分離構造との関連は非常に興味深いものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で目指している分子性導体の非線形性応答解明のために、超広帯域の時間・空間分解分光測定が必要であるが、当初の予定通り装置構築を行うことができた。測定に関しても、予備的な(時間・空間分解を行わない)測定を進めることができ、来年度の本格的測定に向けた成果を得ることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度取得した基底状態での光学応答をもとに、電場印加下での測定を行う。電場波形をソースメータにて発生し、試料に印加することで、不均一な電荷分布を強制的に均一な状態に変化させ、再び不均一な状態に緩和させる。このときの電荷のダイナミクスを、時間分解の顕微分光測定により、集団励起や分子間振動の成長・消失として捉え、パルス電場に対する非線形伝導(マクロな伝導度・誘電率の変化)と対比させる。これにより、電場によって駆動された電荷が、強い電子間相互作用や電子―格子相互作用を介して集団的に運動し、バルク非線形伝導へと逐次的に至る過程が、初めて捉えられると予想される。
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