2016 Fiscal Year Research-status Report
不純物置換効果を利用した電子ドープ型銅酸化物超伝導における磁気相関の起源の研究
Project/Area Number |
15K17689
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鈴木 謙介 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (60734134)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 高温超伝導 / 磁性 / 強相関電子系 / ミュオンスピン回転法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、電子ドープ型銅酸化物高温超伝導体において磁気相関の性質を明らかにし、さらにその静的秩序の安定性や動的な揺らぎが電荷秩序と相関するかどうかを解明することである。平成28年度には、これまで実験施設側のトラブルにより実施が遅れていたミュオンスピン回転実験を行うことができた。それにより、電子ドープ型銅酸化物超伝導体(Pr,La,Ce)2(Cu,Fe)O4において、少量のFeを置換することにより顕著な磁気相関の発達の効果が見られた。これまで電子ドープ型銅酸化物ではZn置換やNi置換の結果が報告されているが、微量の不純物導入により磁性が安定化する結果はこれが初めてである。このFe置換効果の起源にはまだ議論の余地が多いものの、ホールドープ型銅酸化物で見られたFe置換効果と類似したものであれば磁気相関と相関して電荷の相関も発達している可能性がある。また希土類元素スピンの影響がありデータの解釈を複雑にさせる問題があったため、希土類がスピンを持たない(Eu,Ce)2CuO4系の研究に着手した。Eu2CuO4に対してミュオンスピン回転実験を行ったところ、乱れの少ない長距離磁気秩序が発達していることがわかった。希土類がスピンを持つ他の電子ドープ型銅酸化物Nd2CuO4やPr2CuO4では乱れたミュオンスピン回転が観測されることが知られていたが、これは希土類スピンの影響のためでありCuスピンは乱れのないきれいなスピン構造をもつことがわかった。(Eu,Ce)2CuO4系では希土類スピンに乱されずにCuスピン秩序を観測するよい物質系であることがわかったので、今後はCe置換の効果や還元アニールによって導入される乱れの詳細を調べる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度には試料の作製を行い、良質な結晶を作製する条件についてある程度確立した。前年度に実験施設側のトラブルにより遅延していたミュオンスピン緩和実験を今年度は行うことができた。それにより期待していた成果を得た。一方で新たに派生した希土類スピンの問題についても平行して着手しはじめ、(Eu,Ce)2CuO4系で一定の成果が出ている。Fe置換によって安定化した磁気構造を調べるため中性子回折実験を行うが、そのために必要な大型単結晶の育成を浮遊帯域法により試みているがこれまでのところ大型化には至っていない。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果により、当初の期待どおりにFeの置換が磁気秩序を安定化させるという成果を得た。今後は全体像を掴むためにCe置換量や還元アニールの有無によってFe置換効果がどのように変化するのかを調べる。またFe置換効果のメカニズムを調べるために、磁場中輸送特性の実験を行う。東北大学金属材料研究所にある強磁場施設において実験を行う予定である。Fe置換によって安定化した磁気構造を調べるため中性子回折実験を行うが、そのために必要な大型単結晶づくりを継続して行う。大型の単結晶育成を継続して行う。実験には出来るだけ大きい結晶が有利であるが、上手くいかない場合には小さめの結晶を育成して実験に用いる。
|
Causes of Carryover |
初年度のJ-PARC施設におけるトラブルの影響によって、海外で行うはずであった中性子散乱実験の実施が次年度までずれこんだ。次年度に繰り越す額はおおむねそれによって生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
中性子散乱実験のための旅費として次年度に使用する。
|
-
-
[Journal Article] Strong Electron Correlation behind the Superconductivity in Ce-Free and Ce-Underdoped High-Tc T-Cuprates2016
Author(s)
Tadashi Adachi, Akira Takahashi, Kensuke M. Suzuki, Malik A. Baqiya, Takuya Konno, Tomohisa Takamatsu, Masatsune Kato, Isao Watanabe, Akihiro Koda, Masanori Miyazaki, Ryosuke Kadono, and Yoji Koike
-
Journal Title
Journal of the Physical Society of Japan
Volume: 85
Pages: 114716
DOI
Peer Reviewed