2015 Fiscal Year Research-status Report
新しい陰イオン置換反応の確立と混合陰イオン化合物の物性開拓
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15K17695
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平井 大悟郎 東京大学, 物性研究所, 助教 (80734780)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 混合アニオン / 強相関電子系 / 低温合成 / 酸フッ化物 / 酸窒化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
新しい陰イオン置換反応を確立し、強相関遷移金属酸化物に対する物性制御と新奇物性の開拓を行うことを目指し、さまざまな遷移金属酸化物に対して、有機物の熱分解を利用したフッ素と窒素の置換反応を試みた。フッ素樹脂(PTFE)を使用したフッ素置換反応では、ニオブ、タンタル、モリブデンなどの遷移金属では酸フッ化物の合成に成功したが、ルテニウムやロジウムなどの酸化物は金属まで還元されてしまうことを見出した。この結果から、フッ素置換反応には有機物中の炭素による還元が大きく関わっていると考えられる。また、得られた酸フッ化物は酸素とフッ素の比率が連続的に変化するのではなく、特定の酸素対フッ素の比率を持つ化合物が安定化されることが明らかになった。反応機構の解明に向けて、反応で発生するガスの分析にも取り組んでおり、分析条件の最適化が完了した。生成ガスの分析は、今後の反応機構の解明と反応条件の最適化を大きく加速させると考えられる。窒化反応に関しては、まず先行研究で報告されている尿素を使用した窒素置換反応を試みたが、開放系での反応であるため制御性・再現性が低いという問題が明らかになった。そこで、新たな窒素源としてメラミン(C3H6N6)を用いて密封系での反応を試みた。この結果、尿素よりもはるかに制御性がよく、再現性よくタンタルの酸窒素化物が合成できることが確認された。メラミンが窒素置換反応に有効な窒素源となることが明らかになったので、今後は幅広い遷移金属酸化物に対しても適応可能か確認することを計画している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H27年度は、本課題の目標のなかでも特に反応機構解明と反応条件の確立を目指し、さまざまな遷移金属酸化物に対してフッ化、窒化の反応を行うことを計画した。実際にさまざまな遷移金属酸化物に対して網羅的にフッ素樹脂(PTFE)を用いたフッ素置換反応をおこなった結果、どのような金属・反応条件で酸フッ化物が合成できるのかという知見が得られた。今後、反応生成ガスの分析を行い、より複雑な化合物に対してもフッ素置換反応を行う。 窒化反応に関しては、早い段階で当初計画していた尿素を用いた窒素置換反応が制御性・再現性ともに低いことが判明した。このため、計画を前倒しして他の有機分子を用いた窒素置換反応に切り替えた。この結果、メラミン(C3H6N6)と酸化タンタルを密封した石英管中で反応させることで、再現性よく酸窒化タンタルを合成できることが明らかになった。今後は、メラミンを用いた窒素置換反応を他の遷移金属酸化物に対しても適用していく予定である。以上のように、本年度の研究計画はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、H27年度に得た知見をもとに、さまざまな酸化物に対してフッ素樹脂とメラミンを用いたフッ素、窒素の置換反応を行う。H27年度から取り組んできた生成ガス分析の条件出しが完了しつつあるので、ガス分析を並行しておこない、より効率的な反応条件の最適化を目指す。対象とする酸化物は、H27年度に行ってきた2元系酸化物から、より複雑な物性の発現が期待される3元系の酸化物に重点を移していく。具体的なターゲットとしては、化合物のバリエーションが多く、構造の安定性の高いペロブスカイト型化合物やパイロクロア型化合物を想定している。また、合成した物質に対してX線回折による構造の決定、磁化率・抵抗率・比熱測定などの基礎物性測定をすすめ、新奇物性の開拓を進める。
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Causes of Carryover |
当初の計画よりも、物質合成に関する消耗品に多くの予算がかかり、反対に物性測定のための液体ヘリウム代は想定よりも少なかった。結果として、当初の計画と比べて若干の残金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H28年度も引き続きフッ素置換・窒素置換反応に取り組むため、石英管や試薬などの消耗品の購入に使用する。また、H28年度は物性測定に重点を移していくため、測定用の液体ヘリウム代として昨年度よりも多くの支出を見込んでいる。得られた研究成果を積極的に発表し情報交換を行うため、旅費としても支出を予定している。
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