2015 Fiscal Year Research-status Report
混合アニオン系化合物における超伝導および関連新物質の探索
Project/Area Number |
15K17698
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
矢島 健 東京大学, 物性研究所, 助教 (10597800)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 超伝導 / 混合アニオン |
Outline of Annual Research Achievements |
混合アニオン系化合物は、結晶構造内に複数種のアニオンを含む化合物であり、その配位環境に由来して、酸化物や窒化物など1種類のアニオンのみを含む化合物には見られない特異な結晶構造や電子状態を持つ場合がある。混合アニオン系化合物の一種であるチタンニクタイド酸化物BaTi2Pn2Oでは、Pn = Sb, Biのとき超伝導が発現し、また両者の固溶系において超伝導相が一旦消失するなど複雑な電子相図を有する。さらにPn = Asでは、ネマティックCDW状態や、軌道秩序状態の実現が示唆されており、これらと超伝導が競合する系としてチタンニクタイド酸化物は大変興味深い。本研究は、チタンニクタイド酸化物における電子状態や物性の詳細の解明を目的とし、単結晶育成、元素置換効果、関連新物質の探索を行っている。 その結果、BaTi2As2Oの比較的大型な単結晶の育成に成功し、低温相の結晶構造解析や物性測定に向けて大きく前進した。またBaサイトをTlで置換しホールドープを行ったところ、置換量に対する電子状態密度DOSの大幅な上昇が示唆されたが、超伝導転移温度Tcは置換量に対してほぼ不変であった。従来型のBCS超伝導体では、DOSとTcは正の相関関係を有していることから、チタンニクタイド酸化物が非従来型の超伝導体である可能性を示唆する結果を得た。さらに固溶系BaTi2(Sb1-xBix)2Oの電子相図について、従来よりもさらに詳細な組成依存性を調べた結果、超伝導が観測されていなかった組成において、1 K前後の超伝導相が存在すること、またその超伝導相の終端付近においてTcが急峻に変化することを見いだした。これらの結果は、超伝導を阻害する要因の存在、および電子状態が僅かな組成の違いによって劇的に変化していることを示唆している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
単結晶試料の育成は、長時間を必要とする上に、細かな育成条件の最適化を必要とするため、成果を得られるまで長期にわたることが多々あるが、本研究では、既に育成条件を絞り込みつつあり、比較的大型な単結晶試料が得られている。また並行して行っている多結晶試料を用いた実験では、BaTi2Pn2Oの超伝導が非BCSである可能性を示唆する結果が得られるなど、新たな知見が得られている。本研究の目的はチタンニクタイド酸化物における電子状態や物性の詳細を解明することであるが、上記の成果は目的達成に向けて十分な下地ができたと言える結果である。引き続き、残りの期間を用いて研究を行うことによって目的を達成できると考えられることから、本研究はおおむね順調に進捗していると考えられる。なお単結晶育成、元素置換効果の実験の進捗状況に合わせ、当初計画では2016年度に行う予定であった関連新物質の探索についても、計画を少し早め2015年度終盤に取り組み始めた。新物質探索も単結晶育成と同様に、成果が得られるまで長期にわたる場合が多く、現在までに目立った成果は出ていないが、2016年度も引き続き探索を行い、関連新物質の発見を目指す。
|
Strategy for Future Research Activity |
比較的大型のBaTi2As2O単結晶を得ることに成功したが、残念ながら結晶構造解析に足るほどの高品質なものではない。引き続き最適条件の探索を行い、結晶品質を向上させた上で結晶構造解析を行い、低温相の結晶構造を決定する。さらにNQRなど他のプローブを用いた実験を組み合わせることで、ネマティックCDW相や軌道秩序相と言われている低温相の詳細を明らかにする。また固溶系BaTi2(Sb1-xBix)2Oの電子相図において不連続ともとれる急峻なTcの変化が見られたことから、この組成を境に結晶構造や電子状態密度、圧力依存性などにどのような変化が生じているのかを詳細に調べ、複雑な電子相図の起源を探る。類縁新物質探索については、同型の結晶構造を有する物質の探索だけではなく、既存のチタンニクタイド酸化物の構造・配位環境を活かすべく、Intergrowth化合物の探索も行っていきたい。
|
Causes of Carryover |
時間のかかる単結晶育成および新物質探索に用いるため、電気炉を複数購入予定であったが、実験条件を模索していく段階で、単結晶育成には通常の電気炉よりも既存の真空型電気炉が適していることがわかり、電気炉購入数を新物質探索用の1つと減らしたため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
この経費は、物質合成に使用する消耗品、圧力セルなどの購入費用として有効に活用する予定である。
|
-
[Presentation] Superconductivity in Titanium Pnictide Oxides2015
Author(s)
Takeshi Yajima, Kousuke Nakano, Fumitaka Takeiri, Yasumasa Nozaki, Wataru Ishii, Zenji Hiroi, Toshio Ono, Yuko Hosokoshi, Yoshitaka Matsushita, James Hester, Takafumi Yamamoto, Naruki Tsuji, Jungeun Kim, Akihiko Fujiwara, Yoji Kobayashi, and Hiroshi Kageyama
Organizer
The 2015 International Chemical Congress of Pacific Basin Societies (Pacifichem2015)
Place of Presentation
Honolulu (USA)
Year and Date
2015-12-15 – 2015-12-20
Int'l Joint Research
-
-