2016 Fiscal Year Research-status Report
超音波によるシリコン原子空孔がもつ四極子歪み結合の解明
Project/Area Number |
15K17704
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
三本 啓輔 新潟大学, 自然科学系, 特任助教 (50515567)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / 半導体物性 / 格子欠陥 |
Outline of Annual Research Achievements |
最先端半導体デバイスは微細化が進行し,デバイス不良をもたらす微小欠陥の制御がますます重要となっている。またウェーハの大口径化が展望され,ウェーハメーカーでは大口径で高品質のCZシリコン結晶を育成する技術の開発に迫られている。そのため,微小欠陥の生成を支配する原子空孔を計測する技術開発が急務となっているので,原子空孔軌道の量子状態の解明は,基礎物理の喫緊の課題である。大きく拡がった原子空孔軌道は巨大な電気四極子を持ち,極めて大きな四極子歪み結合を示すので,超音波計測による弾性定数の低温ソフト化により,希薄な濃度で存在する原子空孔を観測できる。申請者は,これまで,ボロンドープシリコンの原子空孔軌道の量子状態を明らかにしてきた。本研究では,希薄な原子空孔がソフト化に寄与する起源となる四極子歪み結合効果を詳細に解明することで,半導体デバイスの基盤材料であるシリコンの原子空孔濃度を評価する全く新しい半導体技術の創成に寄与する。 半導体産業で使用されているIT産業で重要なボロンドープp型シリコンと省エネ産業で重要なリンドープn型シリコンに着目して,シリコン中の原子空孔軌道の量子状態とそれが持つ四極子歪み結合効果を明らかにする。(i) ボロンドープウェーハに微小歪みを印加しG8四重項基底状態を2つのクラマース二重項に分裂させ,さらに磁場を印加することで,基底状態がレベルクロスするときに弾性定数に極小が観測されることが期待される。そのときの歪みと磁場の大きさから四極子歪み結合定数を詳細に決定する。(ii) 原子空孔軌道の対称性が希薄系では立方晶であるが高濃度系では低対称に歪んでいるので濃度依存性を現象論的に調べ解明する。(iii) リンドープシリコンの原子空孔軌道の量子状態の解明も重要であるので,リンドープシリコンの弾性定数のソフト化を観測し,原子空孔軌道の量子状態を解明する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
静水圧を印加すると,原子空孔軌道の拡がり<r>が変化することが考えられ,静水圧効果に対する四極子歪み相互作用g∝<r2>や四極子相互作用g'の応答を観測することが期待される。そこで,ピストンシリンダー型の静水圧セルを用いて,ボロンドープFZシリコンの弾性定数C44の測定を行った。まず常圧下における測定試料#1は,2.4x10E-4のソフト化を示し,g=2.8x10E5 K,g'=-1.1 K,N=6.1x10E13 /cm3であった。その試料に0.8 GPaの静水圧を印加し測定すると,ソフト化の大きさは1.2x10E-4であった。四極子感受率を用いた解析により,g=2.1x10E5 K,g'=-0.5 Kであることが分かった。四極子歪み相互作用gは原子空孔軌道の拡がりrの2乗に比例するので,0.8 GPaにおける原子空孔軌道の拡がりは常圧下のものに比べ,およそ90%に減少することが分かった。また,四極子相互作用の絶対値が小さくなっていることから,反強的四極子相互作用が静水圧印加により小さくなったことが分かった。 さらに,一軸圧印加によりシリコン結晶を定対称化させ原子空孔軌道を分裂させることで,ソフト化の抑制を観測し,四極子歪み相互作用gの応答を知ることができると期待される。そのため,一軸圧セルを開発した。平成28年度にはヘリウム液化機が半年以上,故障により停止したので,一軸圧印加の低温超音波測定を平成29年度に行う。 今までに測定したボロンドープFZシリコン,CZシリコンのソフト化を四極子感受率を用いて解析し整理した結果,ソフト化の大きさと原子空孔濃度は比例し,500 mKまでのソフト化の大きさを1.0x10E-4と観測したとき,その試料の原子空孔濃度は3.1x10E13 /cm3であることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に続き平成29年度も一軸圧印加のボロンドープFZシリコンの弾性定数の測定を進め,四極子歪み相互作用gや四極子相互作用g'の一軸圧効果を調べる。 また,これまでの超音波実験による原子空孔軌道の研究は,主にIT産業で重要なボロンドープp型シリコンを対象として推進してきた。ボロンドープシリコンでは,原子空孔軌道から1つの電子が取り除かれ,電荷状態V+であることを弾性定数C44および(C11-C12)/2のソフト化およびその磁場依存性から明らかにした。他方,昨今の環境・エネルギー分野の戦略目標となっているパワーデバイスには,リンドープn型シリコンが主として用いられる。パワーデバイスの高効率化,高品質化には,ウェーハのバルク全体での品質向上が求められている。しかし,ドナーであるリンの添加により,原子空孔軌道に電子が供給されることが考えられるが,原子空孔軌道の電荷状態がV-なのかV--なのかは明らかになっていない。そのためにリンドープシリコンの原子空孔軌道の量子状態を解明する必要がある。予備実験で得られたソフト化を示した試料を用いて,希釈冷凍機による詳細な温度・磁場依存性の実験を進め,電荷状態の解明,ドーパント濃度依存性の有無を検証する。さらに,静水圧下での実験も行い,ボロンドープシリコンの結果と比較することで,原子空孔の理解を深め,四極子歪み相互作用の結合定数の高精度化につなげる。
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Causes of Carryover |
ヘリウム液化機が半年以上、故障したため、安価な液体ヘリウムを用いた低温超音波計測が出来ず,4K以下に現れる原子空孔軌道による弾性定数のソフト化を測定することができなかった。平成28年度中にヘリウム液化機の修理が完了し,実験を行うことができるようになったが,今年度だけでは時間が足りず,次年度に計画を延長する必要が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度に一軸圧セルの開発を行い,参照系として測定試料を一軸圧セルに配置した状態で常圧下の実験を行った。次年度に実際に一軸圧を印加した状態で弾性定数の温度依存性を測定し、ソフト化が一軸圧印加によりどのような応答を示すのかを明らかにする。
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