2017 Fiscal Year Research-status Report
超音波によるシリコン原子空孔がもつ四極子歪み結合の解明
Project/Area Number |
15K17704
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
三本 啓輔 新潟大学, 自然科学系, 博士研究員 (50515567)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / 原子空孔 / 表面弾性波 / 電気四極子 |
Outline of Annual Research Achievements |
表面弾性波(SAW)による原子空孔軌道がもつ四極子の詳細な歪み応答を明らかにするために,曲げ応力による微小な外部歪みdxxをウェーハに室温で精度2.14x10-6で印加できるセルを開発した。応力なし(dz=0 um)で4.7x10-5だけ示したソフト化が,応力の印加により,dz=30 umで2.5x10-5,dz=50 umで0.6x10-5と抑制されることが分かった。さらにソフト化を示した最低温38 mKで磁場を印加すると,dz=0 umで4.7x10-5,dz=30 umで1.3x10-5,dz=50 umで0.1x10-5だけ増大した。応力がない状態では9 Tの磁場印加によりソフト化が完全に回復されるのに対し,応力下のソフト化は磁場を印加しても完全に回復されないことが分かった。 開発した曲げ応力セルを用いてウェーハに応力を印加すると,ウェーハ表面には歪みexxを誘起し,他の歪み(eyy, ezz, eyz, ezx, exy)は励起しない,もしくは非常に小さく無視できる大きさであることが分かった。歪みexxは対称歪みeBとeuにより構成される。応力印加中の正方対称場で対称歪みeBやeuは原子空孔軌道の四極子Ouと結合する。そのため,非常に小さな応力場の印加において,ハミルトニアンにはg Ou euという応力印加の場が加わることになる。そこで,そのハミルトニアンに対して,ウェーハ表面にはSAWが誘起するする四極子Ou, Ov, Ozxを考慮した四極子感受率を用いた解析を行った結果,ソフト化の抑制される様子を定性的に再現できた。しかし,大きな応力を印加したときの定量性は再現できなかった。これは,今,考えている原子空孔軌道がL=1のため,解析には全対称表現の電気16極子と対称歪みeBとの結合の効果が含まれていないため,体積変化の大きいところで定量性の問題が現れたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は,3つのテーマである,1. 歪み誘起による四極子歪み結合,2. 高濃度原子空孔による構造相転移,3. リン添加シリコンのソフト化を明らかにすることで,半導体産業でデバイス製造に使用されるシリコン結晶に存在する原子空孔軌道の量子状態を解明することを目的とする。初年度は2番目のテーマである高濃度原子空孔による構造相転移を明らかにしたが,次年度はヘリウム液化機の長期的な故障により1番目のテーマである歪み誘起による四極子歪み結合の解明を終えることができなかった。そのため,3年目にあたるH29年度は引き続き,応力印加による原子空孔軌道の量子状態の量子状態の解明を実施し,研究実績の概要で述べた成果を挙げた。しかしながら,H29年度も8月から10月まで長期に渡り,また、それ以外の期間も断続的にヘリウムの液化が不可能となり,3つ目のテーマであるリン添加シリコンのソフト化の観測によるn型シリコンの原子空孔軌道の量子状態を解明することはできなかった。現状,リン添加シリコンの超音波実験の予備実験を進めているので,H30年度にリン添加シリコンの詳細な超音波実験を行い,リン添加シリコンの原子空孔軌道の量子状態を明らかにする。
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Strategy for Future Research Activity |
ボロン添加シリコン中の原子空孔軌道は,弾性定数のふるまいから電気四極子だけでなく電気16極子の重要性が明らかになったので,原子空孔モデルを拡張して量子状態を理論的に解明する。 これまでの超音波実験による原子空孔軌道の研究は,主にIT産業で重要なボロン添加p型シリコンを対象として推進してきた。ボロン添加シリコンでは,原子空孔軌道から1つの電子が取り除かれ,電荷状態V+であることを弾性定数C44および(C11-C12)/2のソフト化およびその磁場依存性から明らかにした。他方,昨今の環境・エネルギー分野の戦略目標となっているパワーデバイスには,リンドープn型シリコンが主として用いられる。パワーデバイスの高効率化,高品質化には,ウェーハのバルク全体での品質向上が求められている。しかし,ドナーであるリンの添加により,原子空孔軌道に電子が供給されることが考えられるが,原子空孔軌道の電荷状態がV-なのかV--なのかは明らかになっていない。そのためにリン添加シリコンの原子空孔軌道の量子状態を解明する必要がある。予備実験で得られたソフト化を示した試料を用いて,希釈冷凍機による詳細な温度・磁場依存性の実験を進め,電荷状態の解明,ドーパント濃度依存性の有無を検証する。
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Causes of Carryover |
新潟大学では平成16年度にヘリウム液化機が整備され、低温実験に利用されてきた。設置後13年を経過し老朽化による故障が頻発し、平成29年度は8月から10月まで長期に渡り、それ以外の期間も断続的にヘリウムの液化が不可能となった。そのため計画していた低温超音波実験が大幅に遅れ、それらの実験結果をもとにした理論の構築、解析を実施できなかった。従って、理論の構築をするため補助事業期間の延長をした。 リン添加シリコンの原子空孔軌道の量子状態の理論解明に必要な消耗品,その成果を報告するための物理学会参加のための旅費に使用予定である。
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