2015 Fiscal Year Research-status Report
電気二重層トランジスタを用いた有機強相関電子系の電子物性制御
Project/Area Number |
15K17714
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
川椙 義高 国立研究開発法人理化学研究所, 加藤分子物性研究室, 研究員 (40590964)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 分子性導体 / キャリアドーピング / モット絶縁体 |
Outline of Annual Research Achievements |
電気二重層トランジスタ(EDLT)によるキャリアドーピングは、対象とする物質にイオン液体やイオンゲルを接触させ、電圧をかけることによって行う。有機強相関電子系に関する先行研究がほとんど存在しないため、はじめにどのイオン液体が適しているか、また従来の電界効果トランジスタ(FET)と比べて何倍程度のキャリアをドーピングできるのかを確認する実験を行った。対象物質として、FETによるキャリアドーピングに成功している有機モット絶縁体κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Cl (κ-Cl)を用いた。いくつかのイオン液体では、滴下した時、あるいは電圧をかけた時に試料が溶解してしまったが、DEME-TFSIやBMIM-BF4といった比較的静電容量の小さいイオン液体では試料の破損はみられず、EDLTとして動作させることができた。 同一のκ-Cl単結晶を用いて対照実験を行ったところ、今回作製したEDLTでは、FETと比べて4倍以上のキャリアをドーピングでき、電子と正孔どちらのキャリアについても20%以上のドーピングが可能であることがわかった。実際に、どちらのドーピングに対しても抵抗が下がる明確な両極性動作が得られ、極低温では金属状態が現れた。平成28年度以降、単結晶試料の平滑性の改善や、より適したイオン液体の探索によって超伝導の観測を目指す。 κ-Clにおいて電気二重層ドーピングが成功したため、予定を繰り上げ、平成28年度以降の研究実施計画で挙げたもうひとつの対象物質であるスピン液体候補物質EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2に対しても同様の手法を試みた。しかし上記のイオン液体では大きな電界効果を得ることができなかった。平成28年度は単結晶試料に対する不動態処理等を試み、より広範な分子性導体に対する電気二重層ドーピング手法の確立を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
有機モット絶縁体κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Clに対して、懸念された試料の溶解を克服し、両極性動作および金属伝導という成果が得られたため、初年度の目的はおおむね達成されたと言える。この物質における超伝導の観測、およびもう1つの対象物質として挙げた量子スピン液体候補物質における巨大な電界効果の観測が次年度の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題はおおむね順調に進展しているため、平成28年度も研究実施計画に沿って遂行する。 しかしながら、最近の有機半導体に対する電気二重層ドーピングの研究(小野新平ら,日本物理学会第71回年次大会,2016年3月)によって、デバイス移動度は試料に接するイオン種で決まるのではなく、イオン液体全体の静電容量で決まることが明らかになった。この結果を受け、今後はより静電容量の小さなイオン液体を集中して試みる。
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Causes of Carryover |
本研究の電気抵抗測定では、ゲート電圧印加→冷却→昇温のサイクルを多数行うため、ひとつの試料の測定に数週間かかることもあり、測定時間がボトルネックとなる。そのため、直ちにソースメジャーユニットとナノボルトメータを購入し、ヘリウム容器で冷却しながら電気抵抗測定ができる測定系を追加する予定であった。しかしながら研究スペースの縮小により測定系の追加が困難になった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究実施計画で述べた基板歪みと電気二重層ドーピングを組み合わせた実験のため、基板歪みを印加する装置の購入のために使用する予定である。
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