2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K17719
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
桂 法称 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (80534594)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | トポロジカル相 / エンタングルメント / スピン鎖 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子多体系やトポロジカル相に対して、数理物理学的および数値的な手法によりアプローチし研究を行った。本年度の主な成果として、以下の3つに関するものが挙げられる。(1)量子スピン鎖のエンタングルメント、(2)量子トライマー模型とトポロジカル秩序、(3)共形場理論のサイン二乗変形。
(1)SU(N)対称性のある可積分な量子スピン鎖(開放境界条件)の基底状態におけるエンタングルメントについて、密度行列繰り込み群(DMRG)を用いて調べ、エンタングルメント・スペクトルが、コーナー・ハミルトニアンと呼ばれる、角転送行列の生成子のスペクトルと非常に良く一致することを明らかにした。また、その他の臨界的な可積分スピン鎖やその近傍の非可積分な場合にも、同様な対応関係が見られることを数値的に明らかにした。Fredkinスピン鎖と呼ばれる可解スピン鎖については、そのエンタングルメント・エントロピー(EE)を詳細に調べ、色の自由度のある場合には、EEが体積則を満たす場合があることを明らかにした。 (2)RVB状態やトポロジカル秩序との関係で古くから興味を集めている、量子ダイマー模型の自然な拡張として、量子トライマー模型を提案した。正方格子では可能なトライマー配置の数は、系のサイズに対して指数関数的に増大するが、このようなトライマー配置の重ね合わせ状態が、模型の基底状態になっていると考えられる。このことを、可解なRokhsar-Kivelson点において、具体的に示した。また、この点における基底状態の縮退度や相関関数の振る舞いから、この系はZ3トポロジカル秩序を持つことを明らかにした。 (3)共形場理論のハミルトニアンのサイン二乗変形について調べた。特に、通常の動径量子化でのVirasoro代数の元との関係をユニタリー変換の観点から明らかにした。また、ゼロエネルギー状態(理論の真空)についても解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の2つの大きなテーマは、1.強相関系・ボゾン系におけるトポロジカル相、2.空間変調した1次元量子系の代数的解析、であるが、それぞれについて一定の進展があった。 テーマ1については、従来からよく調べられてきた量子ダイマー模型の自然な拡張として、量子トライマー模型を導入することに成功した。物理的には、トライマーは3つのスピン1からなるスピン一重項状態を表しており、今後スピン1のフラストレート系などへの応用も期待される。また、量子ダイマー模型は、正方格子上ではトポロジカル秩序を示さないのに対し、トライマー模型は正方格子上でもそれを示すことは、今までの研究では見過ごされてきた点であり、分野での関心を集めることが期待される。また、トライマー配置のエントロピーの計算も、本研究ではじめてされたものである。 テーマ2については、先行研究で得られていた、共形場理論のハミルトニアンのサイン二乗変形に代数的な解釈を与えることに成功した。また、真空の構造についても、SL(2,R)と呼ばれる代数構造の観点から明らかにすることに成功している。 さらに、当初は予定していなかったスピン鎖のエンタングルメントに関する研究についても幾つかの進展があった。特に可積分スピン鎖のエンタングルメント・スペクトルと角転送行列の関係については、従来は非臨界的な場合について成立するものと考えられていたが、臨界的な場合についても有限系では良い対応が見られる点を数値的に明らかにした点は意義深いと考えられる。 以上の研究成果のうち幾つかは原著論文として出版されている。また、多数の学会・研究会で成果報告を行った。これらを総合して、当初の目標以上の成果があったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度以降も、2つのテーマについて並行して研究を推進する。 1.強相関系・ボゾン系におけるトポロジカル相 こちらについては、あまり進展していない、当初計画していたボゾン系のトポロジカル相についての研究を進める予定である。最近になり、非自明な磁気秩序がある場合のマグノン系のトポロジカル相についての研究が盛んに行われているが、それらの系における表面状態などについて調べる。特にBogoliubov変換を用いてハミルトニアンを対角化する必要のある、反強磁性的な場合などについて重点的に調べていく。また、マヨラナフェルミオンなどのエキゾチックな粒子系のトポロジカル相についても調べる予定である。 2.空間変調した1次元量子系の代数的解析 今まであまり調べられてこなかった、中心電荷c<1の共形場理論に対応する1次元格子模型のサイン二乗変形(SSD)について、主に数値的に調べる。また、SU(N)対称性のある場合についても同様に調べる予定である。SSDについては、最近になり国内外の研究者により物性・素粒子の分野を超えて研究が行われている。それらの研究者とも密に連絡を取り合い研究を推進する。 また、28年度は当初計画していなかった量子トライマー模型に関して大きな進展があったが、本年度も継続してこちらの研究を行う。特にトライマーとダイマーが共存・競合する系について、古典系・量子系双方の観点から研究を行う。また、ZNトポロジカル秩序を持つ系への拡張や格子ゲージ理論との関係についても検討する。これらの研究は、韓国の研究者とe-mailなどで議論を継続していく予定である。
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Research Products
(18 results)