2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K17732
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Research Institution | NTT Basic Research Laboratories |
Principal Investigator |
松崎 雄一郎 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子電子物性研究部, 研究主任 (10618911)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 量子計測 / ハイブリッド化 / NV中心 / 超伝導量子回路 |
Outline of Annual Research Achievements |
NV中心、核スピン、超伝導量子回路といった量子系において、ハイブリッド化を行うことでどのように高感度センサが構築できるかを検討した。NV中心と核スピンの結合系では、NV中心は磁場との相互作用が強いがコヒーレンス時間は短く、核スピンは磁場と弱くしか相互作用しないがコヒーレンス時間が長いという特徴を持つ。そこで我々は、電子スピンを磁場と相互作用させた後に核スピンに状態を転写することで、それぞれの系の弱点を補完し、磁場センサとしての感度向上を達成できるスキームを考案した。またさらに、電子スピンと核スピンの間にエンタングルメントを生成し、量子誤り検知の手法を用いることで状態のコヒーレンス時間を実効的に改善させることでも、磁場センサとしての感度を向上させられることを示した。また超伝導量子回路に関しては、マイクロ波共振器と超伝導磁束量子ビット集団の結合系に関する理論を構築し、実験実証を行った。超伝導磁束量子ビットは磁場センサとして高い感度を示すことが知られているが、既存の磁場センサとしての実証実験は単一もしくは少数の磁束量子ビットを使ったものがほとんどであった。我々は4300個という巨大な数の超伝導磁束量子ビットをマイクロ波共振器に結合させることに実験的に成功した。これにより、集団の超伝導磁束量子ビットをマイクロ波共振器を通して制御できる可能性が開けた。将来的には、磁束量子ビットの集団でラビ振動やラムゼ振動などの観測を目指し、集団による感度増強を用いた高感度磁場センサの実現を目指したい。また、磁束量子ビット集団をマイクロ波共振器に結合させた系で、超放射が観測できることを理論的に予言した。さらに拡張を進めて、超吸収の観測が可能になれば、この系を高感度単一マイクロ波光子検出器として利用できる点で、非常に意義のある成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
単一NV中心を用いた磁場センサは、高感度NMRやESRに原理的には用いることができるため、生物や医療の方面で様々な応用が期待され、世界中で研究が行われている。そのNV中心において、従来の手法を上回る感度を達成できるスキームを開発できた意義は極めて大きい。具体的には、量子誤り訂正を用いたNV中心の磁場センサ感度の向上に関する研究はいくつか報告例がすでにあったが、我々は量子誤り検知を用いることで感度を向上させるという、新しいアプローチの提案に成功した。現実的な状況で、われわれのスキームのほうが従来型よりも感度が二倍程度大きくなることを定量的に示すことができた。またNV中心集団は空間分解能は単一NVに劣るものの、感度が桁違いに良くなるため、やはり精力的に研究が行われている。NV中心集団の磁気共鳴を光を用いて検出する分光測定実験において、従来の理論では説明できないディップが観測されることが知られていた。我々は新たな理論モデルを構築し、このディップを理論モデルで再現することに成功し、かつNV中心集団の持つパラメタを系統的に推定する手法を構築した。この手法はNV中心集団を特性を効率よく評価できるため、磁場センサの実現を目指すうえでも有用であり、この分野の多くの研究者に用いられることが期待される。さらに、実験家と協力することで、4300個の超伝導磁束量子ビットをマイクロ波共振器に結合する実証を行えたことも、超伝導量子ビット集団を用いた量子計測への道を切り開いた点で、極めて重要な成果といえる。全体として、理論と実験の両面から量子計測に分野に貢献する成果をあげられたため、当初の計画以上の進展があったと結論づけられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、電子スピン集団と超伝導量子回路のハイブリッド系を用いた量子計測についての研究を進めていく。特に、超伝導量子回路を用いて、電子スピン集団のエネルギー固有値を知り、かつエネルギー固有状態に射影を行う理論的なスキームを考案した。高速のESRや状態初期化に役立ち、様々な応用が期待される研究であるため、できるだけ早く出版したい。また超伝導磁束量子ビットの集団の系において、任意の量子ビット間にSWAPゲートを印加できる場合、位相緩和の影響を軽減して、磁場センサの感度をハイゼンベルグ限界にまで高めるスキームを考案した。位相緩和の影響のもとでもハイゼンベルグ限界を達成できる理論は、私の知る限りでは世界で始めてのアイデアであるため、できるだけ早く論文としてまとめあげて投稿したい。超伝導磁束量子ビットとマイクロ波共振器の超強結合系に関する研究も開始した。この系では基底状態にエンタングルメントや仮想光子が存在するため、これらを効率的に抽出し、量子計測に役立てるスキームの開発を目指す。またNV中心集団に関して、その特性を効率的に評価できる手法を開発したため、この系を用いた量子計測の研究を進めて生きたい。具体的には、NV中心集団を用いて、ベクトルの磁場成分を抽出するスキームや、温度の計測、単一のスピンの状態を検知するスキームを研究していきたい。また実験家と協力することで、実験実証への道筋もつけていく予定である。
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Research Products
(14 results)