2015 Fiscal Year Research-status Report
ガンマ線時間領域干渉計法の高度化によるソフトマターの階層ダイナミクスの研究
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15K17736
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
齋藤 真器名 京都大学, 原子炉実験所, 助教 (80717702)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ガラス転移 / 核共鳴散乱 / 過冷却液体 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、57-Feを用いた核共鳴散乱ガンマ線をプローブとしたマルチライン時間領域干渉計法の開発を行い、測定系を応用研究が可能な段階にまで開発することができた。この進展によりこれまでより迅速にダイナミクスの情報を含んだ時間スペクトルを測定することができることが実証された。具体的には、より広い時間スケール(5nsから340ns)で時間スペクトルを測定可能になり、緩和の詳細な形状の決定も可能となった。また、64の検出器により同時に散乱ガンマ線の検出を行えるようになった。 この時間領域干渉計法を用いて、グリセリンの液体ガラス転移のメカニズムを研究した。時間領域干渉計法を用いてグリセリンのミクロな緩和時間の温度依存性、および運動量移行依存性を調べた。これにより、深く過冷却状態にあるグリセリンのミクロなダイナミクスが初めて詳細に調べられた。この結果、まずこれまで良く分かっていなかったグリセリン中のslowβ緩和の存在が明確に示され、過冷却液体におけるslowβ緩和の普遍性の証拠が得られた。また、方向性の水素結合によりネットワーク構造を有しているグリセリンでは、水素結合のスイッチングという緩和のメカニズムが液体を深く過冷却しても大きく変わらないことが分かった。ここで、過冷却液体はそのダイナミクスの温度変化からfragilityという量で特徴づけられ、グリセリンは中程度のfragilityの値を有する。これまで本研究で得られてきたネットワーク結合性をもたないfragilityの程度の強い系に対し同様の解析を行うと、緩和のメカニズムは温度変化し、ある温度から低温ほど緩和が局所化されることが分かった。これらの結果を既存の様々な知見と総合して考察することで、fragilityの起源は局所的な分子結合状態の秩序性に強く関係していることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
グリセリンのガラス転移研究に関しては、1Åから5Åに渡る局所的な空間スケールで11の散乱角で緩和時間を求めることができた。また、時間スケールに関しても、1Åの空間スケールでマイクロ秒スケールのダイナミクスを初めて観測することができた。グリセリンで得られている結果をこれまで本測定系で得られている結果と総合して議論することで、ガラス転移研究において最も重要なfragilityの起源に関する重要な知見を得ることができた。 また、タイヤのモデル系であるシリカを含んだゴム試料に関しても指針を決めるための評価実験は既に行っており、様々な温度、運動量移行値で時間スペクトルを得ることができた。現在データの解析中である。したがって、物性研究に関しては非常に順調に進展していると考えられる。 一方、時間領域干渉計法の開発に関しては、用いた既存の57-Feを含んだ鉄箔の質が低いために、測定法の測定効率非常に向上したものの、予想されるほど十分には向上していない。しかしながら、時間領域干渉計法のシステム自体は十分に応用のレベルには達していることは確認されているため、今後の課題はより質の高い鉄箔ををもちいたマルチライン時間領域干渉計法の完成である。また、装置系に関する鉄箔以外の要素に関しては非常に大きな進展があり、開発されたマルチラインの時間領域干渉計法は今後の多彩な実験に有効に用いることができるようになってきている。このため、装置開発に関しては、おおむね順調に発展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
まずはこれまで得られたグリセリン等の結果を質の高い研究成果としてまとめ、インパクトファクターの高い雑誌に載せることを目指す。 また、シリカ粒子入りのゴムの研究では、これまで得られたデータを解析し、さらに研究を進めることで、タイヤの物性や機能とミクロな構造とダイナミクスの関係性を調べていく。 また、時間領域干渉計法の効率を上げるために、既により質の高い鉄箔を入手することに成功している。これを用いることで、今後の実験において実験の効率が予想された程度まで向上することが期待される。 今後はこのように高度化されて時間領域干渉計法を用いることで、タイヤに用いられるゴムのダイナミクスに関するさらなる研究を行う。また、27年度のペースで物性研究が順調に進展していけば、申請内容に記載してある以上の物性研究が可能となる見込みであり、現在、中距離秩序構造のある液晶系や、同じく中距離秩序構造を有する過冷却液体においても時間領域干渉計法を適用することを検討している。 このように、我々の高度化された時間領域干渉計は世界でもユニークな測定系であり、その特徴を生かし、ミクロなダイナミクスの観点から多様な分野における物性研究を推進していきたいと考えている。
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Research Products
(5 results)