2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K17739
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
吉岡 潤 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員 (50708542)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 液晶 / 非平衡 |
Outline of Annual Research Achievements |
27年度は、複数の棒状液晶分子の混合系における等方液体(I)-コレステリック(Ch)液晶相の共存領域においてCh液晶滴を作製していたが、これを変更しCh液晶滴をフッ素系オリゴマーPF656中において作製した。その結果U字型液晶滴が発現し、これに加えて今まで発見されていない新規な構造を有した液晶滴が2種類発現することが判明し、これらを8の字型、およびコイル状液晶滴と命名した。これらの液晶滴の構造を、偏光および共焦点顕微鏡観察によって明らかにし、また温度勾配印加によって回転運動を誘起することにも成功した。温度勾配印加時、これらの液晶滴は全て勾配方向に平行ならせん軸を有しており、このことは27年度に得られた「回転運動を誘起するためには温度勾配に平行ならせん軸が必要」、という統一的な知見と整合する。また、前年度までの研究では回転現象はI-Ch相転移温度付近の数度の狭い温度領域でのみで実現されていたが、今年度の系を用いれば相転移温度から数十度離れた温度においても安定に回転を誘起出来ることが判明した。このことは、回転を誘起するために系が相転移温度近傍にあることは不必要である、ということを示唆する。 一方で、これまでの系とは反対に、Ch液晶中においてI相の液滴を作製し、温度勾配を印加するという実験を行った。その結果、液滴中にCh液晶滴が形成され回転運動が誘起されたが、このとき回転の方向はI相中に分散したCh液晶滴の場合と反対となった。このときの系の流動場を蛍光退色法で測定すると、液晶滴、液滴の系両方において対流構造が誘起されていることが判明したが、その方向は上記2つの系で互いに反対となった。以上の結果から、「回転運動は温度勾配印加によって誘起される対流、すなわち物質流によって駆動されている」、と考えることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
27,28年度の研究で、縞状、同心円型、ラグビー型、十字型、U字型、8の字型およびコイル状液晶滴という7種の異なる液晶滴の構造解析、および回転のダイナミクスに関する実験解析がほぼ完了し、これより「回転運動を誘起するためには温度勾配に平行ならせん軸が必要」という知見が得られた。また、これまでとは反対に、Ch液晶中に液滴を作製して温度勾配印加時の応答を見るという実験を行い、その結果「回転運動は温度勾配印加によって誘起される物質流によって駆動されている」、という知見が得られた。上記2つの知見に加えて、全ての液晶滴の構造、加えて流動場に関しても大局的には解析済みであり、回転の機構を説明するモデルを構築するために必要な実験解析はほぼ完了した、と言って差し支えない。よって、ほぼ当初の計画通りに進捗していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で得られた大きな2つの知見、すなわち「回転運動を誘起するためには温度勾配に平行ならせん軸が必要」であることと、「回転運動は温度勾配印加によって誘起される物質流によって駆動されている」ことを核に、Ch液晶滴の温度勾配印加による回転運動の機構を説明するモデルを構築することを目的とする。そのために、オンサーガーの変分原理という理論を用いる。この理論によると系の状態変化は、単位時間当たりのエネルギー散逸を表す散逸関数と、自由エネルギー変化の和を最小にするように決定する。現状で、散逸関数と自由エネルギー変化を求めるために必要な分子配向場、流動場はおおむね得られているので、オンサーガーの変分原理を適用することが可能である。これを用いて、回転現象の機構を説明することを試みる。 加えて、理論計算を進めていくうちに、より詳細に測定する必要、あるいは新たに実験によって求める必要がある物理量が出る可能性も高く、これに対応するための補完実験も行う予定である。
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Causes of Carryover |
27年度からの繰越金が存在し、これは当初はより詳細に分子配向場、流動場を測定するために必要と予測される倍率や開口数の大きい対物レンズや高感度CCDカメラを購入するために使用される予定であった。しかし、実際の測定に必要な精度は、既存の物品で十分対応可能であったため、繰越金がこれによって消費されることはなかった。一方で、当初参加を予定してしなかった学会から招待講演の依頼を2件受け、これの旅費捻出のため繰越金が一部消費された。それでも全ては消費されず、結局繰越金の一部がさらに次年度に繰り越されることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度においても、理論解析の進捗によってはより詳細に分子配向場、流動場を実験的に測定する必要が出る可能性があり、そのために必要な対物レンズ、高感度CCDカメラ購入のために繰越金を充てる。一方、29年度分の予算として請求してあるものは当初の予定通り試薬、消耗品、および出張旅費に充てる。
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