2016 Fiscal Year Research-status Report
グリーンランドで観測される地震波形与える氷床の影響の解明
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15K17742
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
豊国 源知 東北大学, 理学研究科, 助教 (90626871)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | グリーンランド氷床 / 地震波干渉法 / 圧力融解 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究第二年度である28年度は,27年度に引き続き地震波干渉法を用いた解析を行った.観測点数を露岩域も含めた16点に増やし,計120観測点ペアにおける2011年9月~2016年2月の4.5年の連続上下動記録の解析を行った.日平均の相互相関波形の抽出に用いた手法は昨年度と同様である.これらをさらに3ヶ月間で平均し、波形の安定化を行った。3ヶ月平均は10日ずつずらしながら計算したので、各ペアについて154本の波形を得た。またリファレンスとして、4.5年間で平均した波形(リファレンス波形)も得た。
得られた波形について、脈動の典型的な周波数帯域である0.1-0.3 Hzのバンドパスフィルターをかけた後、各3ヶ月平均波形のリファレンス波形からの位相ずれを計算し、各ペアの位相速度がどのように時間変化しているかを調べた。結果として、複数のペアにおいて、位相速度変化に明瞭な季節変動と経年変動が発見された。グリーンランド周辺ではノイズ源の時間的変動が大きいため、見かけ上の速度変化に注意を払う必要があるが、内陸部の同一直線上に並んだペアで異なるパターンが見られるなど、ノイズ源の時間変化で結果を説明することは難しいと判断された。
またこのような変動は氷床の厚い内陸部でより顕著であること、大気圧と積雪による氷床表面の圧力変化とよく対応していることが見出された。同様な手法を用いた先行研究(Mordret et al., 2016)では、経年変動抽出の可能性は低いと結論されていたので、本研究がグリーンランドにおけるレイリー波位相速度の経年変動を捉えた初めての例となった。また興味深いことに、位置や方位が近いペアにおいて、一方では夏に速度低下が、もう一方では速度上昇が見出された。現在、このような違いが起きるメカニズムについて、氷床底部の温度状態(凍結か融解か)との対応に着目して考察した論文を投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
氷床表面を伝播する表面波抽出のために地震波干渉法を用いた研究を始めたが、氷床表面の圧力変化に起因した氷床底部の地震波速度変化を捉えられた可能性が高いことは当初計画以上の進展である。
今回発見された位相速度の季節変化・経年変化の両方が顕著な場所は、氷床中央部の南北方向に隣接した2測線(2つの観測点ペア)であった。グリーンランド氷床は中央部で厚さ3 km以上に達するため、0.1-0.3 Hzの周波数帯の解析では、レイリー波の感度が氷床底部~基盤岩浅部に集中する。従ってこの2ペアでは氷床底部の変動を捉えている可能性が高い。また北側の測線では位相速度が夏期・経年ともに減少するのに対し、南側の測線では夏期・経年ともに増加するという、逆位相の関係が見出された。位相速度の季節変化・経年変化は大気圧や積雪による圧力変化によく対応しており、夏期の高気圧と経年的な積雪の増加により、上記の位相速度変化が生じたと考えられる。すなわち、同じ氷床表面の圧力増加に対して、北側では速度減少、南側では速度増加として応答していると思われる。
氷床底部の温度状態を調べた理論的研究によると、北部の氷床底部は、およそ5千万年前にグリーンランドを乗せたプレートがアイスランドのホットスポット上を通過したことによる残留熱により、圧力融解を起こしていると予測されている。一方、南部の氷床底部は凍結していると考えられている。今回逆の位相速度変化が見つかった2測線は、それぞれの領域に位置している。従って、北部の測線では、表面の圧力増加で融解した水が氷床底に増えたため速度が減少するのに対し、南部の測線では、表面の圧力増加で氷床の圧密が起こり、速度が増加したという解釈が可能となる。氷床底部の状態を連続的に検出した研究例は世界的にも類例がなく、当初計画以上に興味深い成果が得られたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度である29年度は、現在の地震波干渉法を用いた研究をさらに発展させるため、上下動成分だけではなく、3成分全てを用いて解析を行い、ラブ波の検出も試みる。ラブ波は水に対して感度が高いので、圧力融解に起因した変動をより詳細に捉えられる可能性が高い。
また当初計画通り地震波トモグラフィーの解析も進める。P波、S波等の読み取りや震源決定に時間が必要だが、後続波部分まで読み取りを行い、詳細なデータを作成したい。最終的には地震波干渉法で得られた表面波のデータともジョイントさせた解析にまで発展させる予定である。
波形計算については、3次元の氷床・基盤岩モデルを用いた研究を進める。地震波干渉法の結果を詳細に解釈するためには、理論波形との比較が不可欠である。来年度課題として採択された学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点(JHPCN)の課題「グリーンランド氷床モデルを用いた3次元理論地震波形計算(jh170026)」と連携して、スーパーコンピュータを使った計算を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
本研究課題は、グリーンランドにおける連続地震観測を基盤とした研究である。氷床上の観測点のメンテナンスは、課題代表者が毎年現地へ赴いて行ってきたが、これまで観測に係る経費を支出してきた別課題が本年度で最終年度を迎えたことから、来年度は本課題から観測経費を支出する必要が生じたため繰り越しを行った。
また現在投稿中の国際誌は完全オープンアクセスであり、掲載予定年度である29年度に20万円程度を支払う必要があるので、繰り越しを行った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年8月に2~3週間程度グリーンランドに滞在し、観測をするための経費は30~40万円、論文掲載に必要な経費は20万円程度で、次年度使用額とおおむね一致する。この他は当初計画通りに支出する予定である。
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