2015 Fiscal Year Research-status Report
海底熱源が作る深層循環3次元構造の解明と物質循環への影響
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15K17765
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Research Institution | Japan, Meteorological Research Institute |
Principal Investigator |
浦川 昇吾 気象庁気象研究所, 海洋・地球化学研究部, 研究官 (00733916)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 海洋大循環モデル / 熱塩循環 / 深層循環 / 子午面循環 / 海底熱源 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は3つの実験を行い、海底熱源の有無が海洋大循環場に与える影響を評価し、先行研究と整合的な結果が得られる事を確認した。3つの実験とはすなわち、海底熱源を与えないCTRL実験、水平分布を有した海底熱源を与えるGTHM実験、海底熱源の水平平均値 (63.6mW/m2)を一様に与えるGTHMuni実験である。モデルは気象研究所共用海洋モデルを用い、実験設定はCMIP6/OMIPに準拠し、1200年弱の数値積分を行った。海底熱源を与えた場合、全球平均温位はCTRL実験に比べ0.03度昇温した。深層に限定すれば約0.1度の昇温となり、水の熱容量の大きさを考慮すれば決して小さな熱量差ではない。子午面循環(MOC)に着目すると、大西洋MOCにはほとんど影響がなく、太平洋MOCが7.8から9.5Svに1.7Sv強化され、南大洋MOCも0.7Sv強化された。南極周極流流量も2Sv大きくなり、これは深層対流強化に伴う傾圧性強化を反映したものと考えられる。先行研究の太平洋MOC強化は、最も近い実験設定のもので7.7から9.2Svである。ただしこの実験の海底熱フラックスは100mW/m2一様であり、本研究で用いたモデルの方が海底熱源に対する感度は高い。3,400m以深の太平洋深層水平流の場を比べると、海底熱源は循環場の構造を変えるというよりはむしろ、既存の循環場を強化する方向に働いていた。上記結果はGTHM, GTHMuni実験で同じであり、海底熱源水平分布の有無は上記指標に影響を及ぼさない。 本研究で先行研究よりも小さい海底熱フラックスを与えたのは最新の研究による示唆に従ったためであるが、それでも先行研究に比して現実的なモデルを用いて行った実験で同等のMOC強化が確認された事は、海底熱源の重要性を再確認する意義深い結果である。来年度以降の研究と合わせて、その影響評価をより詳細に行う必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の通り海底熱源の与え方によって3実験を行い、1,200年弱の数値積分を年度内に完了した。全球平均温位にはまだわずかにトレンドが残っており、完全に定常状態には至っていないが、子午面循環流量はほぼ定常に達しているため、循環場を議論する上では必要十分であると判断した。海底熱源による昇温、循環強化の様相などは先行研究と整合的であることを確認し、海底熱源が水平深層循環場に与える影響も調査した。GTHM, GTHMuni実験の比較から、海底熱源水平分布の有無が与える影響についても調査し、少なくとも今回用いた指標の範囲では両者に大きな違いは無いことを確認した。全て研究計画の通りに進行しており、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
現状、研究計画の変更あるいは研究を遂行する上での問題点は確認されていない。来年度は当初の予定通り、海洋深層循環場にとって重要なパラメータである鉛直拡散係数を一様に小さく設定した感度実験を行い、本年度の3実験と合わせて物理的観点から海底熱源の影響評価を総合的に行う。その後はこれら実験結果を利用し、海洋化学、生物地球化学的視点からの影響評価を試みる予定である。
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Causes of Carryover |
日本海洋学会2015年度秋季大会が従来の予定よりも1日短縮された。また初日に開催されたシンポジウム2つが本研究課題の情報収集に適さないものであったため参加を見送った。航空券・宿泊費のパック商品を活用することにより、旅費を予定よりも低く抑えることができた。これらの理由により次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は日本海洋学会2016年度秋季大会に加えて、米国地球物理学連合の秋季大会に参加する予定である。このための旅費として使用する。
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