2017 Fiscal Year Research-status Report
南大西洋と南インド洋における十年規模変動の実態解明と予測可能性
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15K17768
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
森岡 優志 国立研究開発法人海洋研究開発機構, アプリケーションラボ, 研究員 (90724625)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 南大西洋 / 南インド洋 / 海面水温 / 十年規模変動 / 大気海洋海氷結合モデル / 予測 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、南大西洋から南インド洋へ東進する海面水温の十年規模変動について、物理メカニズムと予測可能性に関する論文を2編出版し、そのうち1編についてプレスリリースを行った。また、南大西洋の十年規模変動の起源となる大気の変動について、ウェッデル海の海氷からの影響を示唆する論文を1編出版した。これらの成果について、国内外の学会などで発表を行った。 南インド洋の海面水温には、十年から二十年の周期をもつ変動、十年規模変動が存在する。この変動は、直上に大気の変動を伴い、水蒸気の輸送を変えることでアフリカ南部の降水量に十年規模変動をもたらす。これまでの研究で、南インド洋の十年規模変動は南大西洋から東進する海面水温の十年規模変動が関わっていることが示された。平成29年度の研究により、南大西洋の大気の変動が海面水温の変動をもたらすこと、また、海面水温の変動は密度の変動を伴い、東向きの南極周極流の影響を受けて、準定常ロスビー波として東に伝播することが明らかになった。 次に、気候モデルを用いて、モデルの海面水温を観測された海面水温に近づけて(初期化して)から、十年先までの予測実験を行った。その結果、南インド洋の海面水温を6-10年先まで高い精度で予測可能であること、また、南大西洋から南インド洋へ東進する水温変動を捉えられることが示された。これらの手法は、他の海域に見られる十年規模変動の予測研究への応用が期待される。 さらに、南大西洋の十年規模変動をもたらす大気の変動について、気候モデルを用いて、ウェッデル海の海氷変動の影響を調べた。その結果、ウェッデル海の海氷が少ない年には、海氷面温度が上昇し、海氷の北側で大気の傾圧性が弱まることで、南大西洋の中緯度域で高気圧性の循環が維持されやすいことがわかった。南大西洋の十年規模変動を予測するには、海氷変動も気候モデルで正しく初期化する必要性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成29年度までに、南インド洋と南大西洋の十年規模変動の物理メカニズムに関する論文を3編、南インド洋の十年規模変動の予測可能性に関する論文を1編出版してプレスリリースを行い、平成29年度までの研究計画を達成している。さらに、平成29年度末に、南大西洋の十年規模変動の予測可能性に関する論文を1編投稿し、当初の計画以上に研究が進展している。これらの成果について、国内外の学会などで数多くの発表を行っている。 当初の計画では、南インド洋と南大西洋の十年規模変動について、物理メカニズムを明らかにすることが目的であった。平成29年度の研究でさらに、南大西洋の十年規模変動をもたらす大気の変動の起源を示唆することができた。ウェッデル海の海氷が変動することにより、南大西洋の大気の変動をもたらし、それが南大西洋や南インド洋の十年規模変動につながる可能性がある。この成果は、南半球の海洋や気候変動を理解する上で、南極周辺の海氷変動を考慮する必要があることを意味する。 一方で、南インド洋の十年規模変動の予測可能性を示すことができた。南インド洋の十年規模変動は、海洋内部の変動による影響が大きいため、温室効果ガスなど大気の放射強制力の変化を考慮した気候モデルでも予測するのが難しい。本研究で、モデルの海面水温のみを観測された海面水温で初期化する手法を用いて、十年規模変動を予測できることが示された。この手法を用いれば、海面水温の観測データが長期に渡って存在する北半球の十年規模変動を過去に遡って調べることができる。 さらに、当初の計画以上に、南大西洋の十年規模変動の予測可能性に着手することができた。上記の手法では予測精度が南インド洋ほど高くないことがわかった。そこで、気候モデルの海洋内部の水温や塩分を観測データで初期化したところ、予測精度が著しく向上することがわかった。この成果を、論文として投稿することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究で、気候モデルの海面水温だけでなく海洋内部の水温や塩分を観測データで初期化することにより、南大西洋の十年規模変動が十年先まで予測可能であることが示された。しかし、海洋内部の水温や塩分の初期化がどうして予測可能につながるのか、原因の詳細は分かっていない。そこで、南大西洋の十年規模変動が強く見られる海域で熱収支解析を行い、海洋内部の水温変動の形成メカニズムを明らかにする。こうした研究成果を、国内外の学会で発表するだけでなく、国際誌に出版する予定である。 南大西洋の十年規模変動が顕著に現れる海域には、東向きに強く流れる南大西洋海流や南極周極流がある。これらの海流の影響を受けて、観測データで初期化されたモデルの水温変動が東向きに移流され、南大西洋の十年規模変動の予測可能性につながっていることが期待される。一方で、大気の変動に伴う海面熱フラックスの影響も無視することができない。南大西洋の十年規模変動の予測精度に海洋と大気の変動がどの程度影響を及ぼしているか、熱収支解析を通して詳細を明らかにする。 一方、海洋内部の水温や塩分の初期化により、南大西洋だけでなく南インド洋の十年規模変動についても、予測精度が向上している可能性がある。南大西洋と南インド洋の海洋内部の初期化が、南インド洋の十年規模変動の予測可能性に与える影響について考察する。 平成29年度に、ウェッデル海の海氷変動が南大西洋の大気の変動に影響を及ぼすことが示された。これを受けて、モデルの海面水温や海洋内部の水温や塩分だけでなく、海氷(特に観測データの入手可能な海氷密接度)もまた観測データで初期化することで、南大西洋の大気の変動をモデルでより良く再現できることが期待される。こうした海氷モデルの初期化手法の開発を今後進めていく。
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Causes of Carryover |
理由:平成29年度に投稿した論文について、審査の結果、追加解析が必要となり新たな知見が得られたが、年度内に出版することが困難となり、平成30年度に出版を見送ったため。
使用計画:上記の論文が平成30年度に出版されることになった場合、論文の別刷り代の一部として使用する予定である。
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