2015 Fiscal Year Research-status Report
自動分類型応力逆解析法の開発とプレート沈み込み帯の応力史解明
Project/Area Number |
15K17776
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 活志 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70509942)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 応力逆解析 / プレート沈み込み帯 / 構造地質学 / 小断層解析 / 摩擦係数 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は応力逆解析法の改良・開発を試み,以下の2点の成果が得られた. (A) 摩擦係数推定手法の開発 小断層群の方位を入力データとする応力逆解析法によって決定できるのは,主応力軸の方位と応力比(3つの主応力値の間の比)のみである.本研究はこれらのパラメタを基礎として,断層面の方位頻度分布を分析することにより,小断層の静止摩擦係数を推定する手法を開発した.この手法は,粘着力を無視した摩擦則に基づいて,流体圧や差応力の変動によって小断層が滑ると仮定したときに生じる方位分布モデルを観測データに当てはめる.このモデルは,当初本研究で採用する予定であった滑り傾向係数(slip tendency, Morris et al., 1996; Lisle and Srivastava, 2004)に従うモデルとは異なるが,天然のデータによく適合した.手法の検証として房総半島に分布する前弧海盆堆積岩体を切る小断層を解析したところ,0.7という標準的な静止摩擦係数が得られた. (B) 混合確率分布モデルと情報量基準による自動分類型応力逆解析法 従来のグラフによる視認ではなく,自動的に複数の応力を検出する解析法を開発した.この手法では,小断層方位データのHough変換によって5次元解空間に得られる適合度分布(Sato and Yamaji, 2006; Sato; 2006)に混合5次元Kent分布を当てはめて,適合度のピークを検出する.このとき,混合する分布の数,すなわち応力の数はベイズ情報量基準によって決定する.この手法の性能検証のため,別府湾周辺に分布する小断層群を解析した.この地域は第四紀に水平引張応力場に置かれているが,2種類の応力が検出され,引張方向が数十度変化したことが解明された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度はおおむね計画のとおり,応力逆解析法の機能拡張(摩擦係数の決定および複数の応力の自動検出)を達成した.特に摩擦係数決定手法の提案においては,従来の手法では考慮されていなかった,差応力の変動や地殻流体圧の変動を考慮したモデルを提案することができた.前者は,地下の様々な深度で形成された断層を解析できるという長所がある.また近年,地殻流体圧が地震の繰り返しサイクルに伴って変動するという指摘もあり,本モデルの有用性を示している. ただし,平成27年度中の目標としていた応力逆解析法の基本原理(Wallace-Boot仮設:剪断応力の方向に断層が滑るという仮説)の見直しは達成できていない.これは,摩擦係数を決定する際のモデルが断層面の方位のみを用いており,滑り方向の情報が不要であるという利点と裏腹に生じた弊害であった. また,新手法の性能検証実験が十分ではない.複数の応力を自動検出する新手法が多様な条件で有効かどうかを確かめるため,様々な断層面分布,応力数,断層数の模擬データセットを用いた性能検証が必要である.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り,新手法を用いた付加体の小断層解析による応力変動解明に向けて,データ収集のための地質調査を行う.主な調査対象は,四万十帯の底付け付加体である構造性メランジュとする.また,比較対照のために剥ぎ取り付加体および前弧海盆堆積岩体の調査も行う.断層の滑り方向や剪断センスの正確な判定のため,必要に応じて断層の表面もしくは剪断帯の断面の顕微鏡観察を行う. また,前年度の手法開発で不十分だった点を補うため,新手法の性能検証のための数値実験を追加して行う.多様な模擬(人工)断層データを生成し,摩擦係数の決定および複数の応力の検出が,どのような条件で成功もしくは失敗するか検証する.
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