2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K17795
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
野口 直樹 岡山大学, 地球物質科学研究センター, 助教 (50621760)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 高圧氷 / 氷天体 / レオロジー / ラマン分光 / 拡散 / プロトン |
Outline of Annual Research Achievements |
研究に着手すると、まず高圧氷の拡散実験に必要な実験装置の開発・整備を行った。当研究室に既存の顕微ラマン分光器に、精密マッピングステージを組み合わせて、2次元ラマンマッピング測定システムを構築した。また、マシンスタディによって拡散プロファイルを測定するうえで重要な空間分解能を評価した。ダイヤモンドアンビルセル(DAC)へ氷拡散対を充填する装置も自作し、-25℃以下の低温条件でDACの試料室にH2O氷と同位体トレーサーの氷(D2OとH218O)を実体鏡下で詰めることができるようになった。 実験の基盤が整ったところで、高圧氷VI相とVII相の拡散実験を行った。まず、VI相とVII相のOHおよびOD伸縮振動に起因するラマンバンドの相対強度と重水素濃度の関係を調べることによって、ラマン分光法によって重水素トレーサー濃度を定量するための検量線を作成した。拡散実験は300K~450K, 1~17GPaの温度圧力条件で行った。VI相の実験で得られた2次元の拡散プロファイルにおいては、多結晶粒界に沿った速い水素の拡散パスが確認できた。また、VII相の水素の拡散係数の圧力依存性は、11GPaで極大値をとる特異なものであることが分かった。酸素の拡散実験の結果や近年のVII相のプロトン伝導実験の結果を参考にして、水素のダイナミクスを考察し、11GPaで拡散の律速過程が変化することをつきとめた(Noguchi and Okuchi, submitted)。 一方、高圧氷の低温相(II, III, V相)は融点が氷点以下であり、これらの拡散プロファイルを決定するには低温高圧条件下でラマンマッピング測定を行う必要がある。そこで、ペルチエ素子を使ったDAC冷却システムを開発した。ペルチエ素子は振動を発生させずに対象物を冷却できるため、低温ラマンマッピング測定に向いた冷却方法であるといえる。これにより、-60℃までの低温下でのラマン分光測定が可能になり、低温相の拡散実験が行えるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始当初は分光用CCD検出器の故障などのトラブルがあったが、初年度前半で実験装置を構築できたため、早い段階でメインの高圧氷の拡散実験を実施することが出来た。また、研究計画の立案段階では同位体トレーサーの検量線が相や圧力に依存して大きく変化し、同位体定量分析のスキームが複雑になることが予想されていたが、実験によって検量線は相や圧力にほとんど依存しないことが確認できたことも、スムーズに拡散実験ができるようになったことの要因の一つである。
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Strategy for Future Research Activity |
VII相の水素の拡散係数を決定することができ、酸素の拡散が塑性変形を律速することを明らかにすることができた。しかし、塑性変形の定量的な議論に必要な酸素の拡散係数の決定には至らなかった。酸素の拡散係数を決定するには、顕微ラマン分光法で酸素の微小な同位体効果をより精度よく測定することが必要となる。そのために、より焦点距離の長い分光器を導入するなどの装置の改良や、より高温で長時間、拡散実験を行うなど実験条件の変更が必要となる。 また、粒界拡散係数の決定方法も課題の1つである。半定量的な解析は、Whipple(1956)の厳密解と実験で得られる拡散プロファイル比較によってできるが、厳密解を直接拡散プロファイルにフィッティングするのは困難である。そこで、有限要素法を使った解析プログラムの開発を進めている。これにより、正確な粒界拡散係数が決定できると期待される。 これから、ペルチエ冷却DACを使用し、低温相(II, III, V相)の拡散実験に本格的に取り組む予定である。それらの低温相はエウロパ、タイタン等の大型氷天体において、内部海の直下に存在する層の主要構成物質であり、内部海の存在できる期間はそれらの高圧氷の塑性流動特性が影響する。本研究によって、開発された手法でそれらの低温相についても拡散係数が決定でき、内部海の存在期間に関する議論ができるはずである。
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Research Products
(2 results)