2016 Fiscal Year Research-status Report
グラフェン集積構造を持つ炭素物質への磁場効果とそれによって誘導される新機能
Project/Area Number |
15K17808
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
浜崎 亜富 信州大学, 学術研究院理学系, 助教 (60510120)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 炭素物質 / 磁気配向 / メソフェーズ / 発現環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、グラフェン集積構造を持つ炭素物質構造の磁場制御を目指している。 比較的低分子量の炭素物質は加熱による溶融過程でメソフェーズを経由する。メソフェーズは結晶子と油分で構成される異方性構造の球晶で、熱処理を継続すると、球晶同士が融合して異方性構造を持つ黒鉛様構造の固体、すなわち黒鉛前駆体となる。メソフェーズは液晶のように磁場で配向することが知られ、磁気配向の起こり易さは、結晶子の大きさや密度に依存すると推測される。しかし、ピッチ系原料は天然物由来であり、初期段階ですでに未発達な結晶子(XRD 測定で原料中に炭素六角網面の積層構造が見える)を含むため、加熱処理時の結晶子の大きさや油分量を定量的に解析するには適当ではない。当該年度はアントラセンピッチの炭素化過程を上記の測定で検討することにより、磁気配向がより促進する環境を探索した。 実験の結果、合成したアントラセンピッチは高配向を実現したものの、局所的にしか観測されなかった。X線回折測定の結果、アントラセンピッチは天然物の石炭ピッチに比べて結晶子が成長しておらず、含有量が少なかった。広範囲に高配向の状態を実現するにはメソフェーズ形成時の結晶子の大きさと軽質油分の含有量が重要であり、小さい結晶子を多量に含有しかつ多量の軽質油分量を含む必要があることが示唆された。今後の実験でこれらを実証し、磁気配向の最適な発現条件をより詳細に明らかにする。また、低磁場での実験も実施し、産業的な実用化に向けたアプローチも加速させる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の実験では、天然物の石炭ピッチに比べてアントラセンピッチのほうがメソフェーズでの磁気配向が大きく促進することがわかった。しかし、メソフェーズになるドメインは小さく、広範囲に磁気配向を促進させるには至っていない。X線回折測定の結果、アントラセンピッチは天然物の石炭ピッチに比べて含有量が少なく、結晶子も成長していなかった。一方、蛍光測定およびラマン散乱測定より軽質油分量の評価をしたところ、磁気配向が発現する際には充分な量の軽質油分が含まれており、軽質油分量の減少とともに磁気配向は結晶子の大きさが充分であっても観測されなくなった。 in-situでの分光測定ならびに偏光顕微鏡像測定を可能にする温調ステージは、測定が可能になったが、磁場軸に対して平行方向からの測定では現象がほとんど確認できなかった。原理的にも垂直方向からの観察が望ましいのは明らかであるが、現状では構造上の問題で測定は不可能なため、改良をおこなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に実施した実験の結果、結晶子の成長と磁気配向の関係をみると、メソフェーズが発現するタイミングにおいて小さい結晶子が多量に存在し、かつ軽質油分が多いほうが磁気配向に適していると考えられる。平成29年度はピッチ合成時の圧力を上げて小さな結晶子を成長させる手法を確立する。また、炭素化のタイミングで軽質油分の添加も実施する。これにより、平成28年度の課題点を克服し、磁気配向の広範囲での促進を目指す。 温調ステージの改良は最終段階に入っており、平成29年度の早期に実験に用いることができる見込みである。分光、ならびに像の観察により、反応の経時変化を明らかにすることで、磁気配向についてより具体的な検討が出来るようになる見込である。 最終年の課題であるグラファイト系炭素の合成についても、計画通りに実験を推進する。
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Research Products
(4 results)