2015 Fiscal Year Research-status Report
高反応性化学種を駆使した極性転換戦略による高歪み抗がん活性天然物の合成研究
Project/Area Number |
15K17856
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
谷本 裕樹 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 助教 (00581331)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 極性転換 / ニトロソ / アレン / 天然物化学 / 有機合成化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はニトロソアレンの前駆体となる基質の合成法の確立、ニトロソアレンを用いた極性転換反応の開発、ならびにその求核剤の適用範囲の検討を中心に行った。
新規化学種ニトロソアレンを発生させるための前駆体としてN-シロキシスルホニルアレンアミドを選定しフッ素イオンを作用させたところ、系内にてニトロソアレンを、世界で初めて発生させることに成功した。また、発生したニトロソアレンは脱離したスルフィン酸と速やかに反応し、α-スルホニル不飽和オキシムが得られた。そこでスルフィン酸の捕捉剤を用いたところ、アミン、フッ素、アミド、シアニドなどの様々な求核剤を導入することに成功した。また、得られた基質は速やかに創薬分子の構造として重要なキノリン骨格やイソキサゾリン骨格へと変換することができ、これまでに合成できなかったような創薬分子の合成への展開が期待できる結果となった。
また求核剤としてカルボニル類を用いたところ、単純な付加反応ではなく、[3+2]環化付加反応を通じ、これまでにない複雑な不飽和環状ニトロン分子を得た。エステルやニトリル、ケトンを用いてニトロソアレンとの反応性を検討したところ、その化学種に応じて異なるタイプの環状ニトロンを与えることが分かった。環状ニトロンはそれ自身が複雑分子の合成に多用されている化学種であり、新しい多環性骨格分子の合成法としての有用性を示す結果となった。このニトロソアレンは今までに知られている不飽和ニトロソ化合物とは大きく違う反応性を示したことから、DFT軌道計算を行ったところ、反応に寄与するLUMO軌道の分布がほかの化合物と異なることが判明した。以上より、長い歴史を持つニトロソ化合物において、これまでにない化学種の創出と新規化学変換手法を提案することができ、今後の複雑分子の合成に有望な結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新規化学種であるニトロソアレンの生成と、それを利用した極性転換的反応の開発に成功し、最終的な合成ターゲットとなるTaxolやFR182877に必要な炭素―炭素結合、炭素―酸素結合の構築が可能であることも明らかにできた。また、当初想定していなかった複雑な環状ニトロンの合成反応を見出すことができ、その反応性について計算化学的アプローチからの解明を行うことができた。今後はより汎用性の高い反応前駆体合成法を確立し、分子内反応へと展開させることによって天然物の骨格形成へと展開できると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は天然物合成に向けたより汎用性の高い前駆体合成法の開発と分子内反応への展開を進める。具体的には以下の通りである。
現在のところ、天然物合成にすぐに展開できる自由度の高い反応前駆体の合成が行えていない。しかし、ニトロソアレンのみならず、その反応前駆体もこれまでに我々以外で合成例が見られないことから、様々なアプローチによる自由度の高い前駆体合成法を模索する。具体的には金属触媒によるクロスカップリングや異性化反応を中心に検討を進める。
同時に、昨年度までに達成した極性転換的付加反応を分子内反応へと適用させることで、生物活性天然物の骨格合成へのアプローチを行う。炭素―炭素結合ならびに炭素―酸素結合構築を中心に、特に高いひずみ骨格を持つ不飽和中員環骨格の構築を目的とし、抗がん活性天然物骨格の構築を進めていく計画である。
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Causes of Carryover |
当初予定していた機器購入が、業者からのレンタルでまかなえたことが大きい。その一方で次年度の海外渡航による成果報告の機会が増えたため、そのための予算を確保する必要があることがおもな理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
招待講演における謝金、天然物合成に向けた研究のための試薬や溶媒、金属触媒などの購入、ならびに7月の国外での学会および招待講演のための渡航費・日当・宿泊費に充てる予定である。
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