2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K17869
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小林 裕一郎 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10739676)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 多孔性金属錯体 / ナノ空間 / 高分子 / 糖鎖 / グルコース / 開環重合 |
Outline of Annual Research Achievements |
金属イオンと有機配位子からなる多孔性金属錯体の細孔を糖鎖合成の反応場として利用し、制御合成を行う。多孔性金属錯体はゼオライトや活性炭などの従来の多孔性物質では実現しにくい、「完璧に近い規則性」、「設計性の高さ」を特徴として有する。このナノ空間を予め糖鎖がちょうど一本で包接される大きさに設計した上で、単糖の配向・位置・距離を制御し、単糖を連結することが出来れば、得られる糖鎖の1次構造を精密に制御できることが期待される。更に、多孔性金属錯体の次元性を2次元、3次元とコントロールすることによって、高次構造の制御も可能になることが期待できる。そこで我々はまず、糖鎖の一次構造の制御を目的に、単糖の大きさ(0.7 nm)に近い一次元のナノ細孔(1.1 nm)を持つ多孔性金属錯体を合成し、その細孔内で種々の単糖の重合を試みた。最初に最も一般的な、逐次重合であるグルコースの脱水重縮合を試みたが、糖鎖が得られなかった。この原因を細孔内での分子運動性が原因であると考え、重合法を連鎖重合である無水糖の開環重合に変更したところ、糖鎖の合成が確認された。また、一般的な溶液やバルク中での重合により得られる糖鎖は、架橋構造を形成するためにあらゆる溶媒に不溶となるが、細孔内で重合した糖鎖は架橋構造が形成せず、水やDMFなど、一般的な溶媒に完全に溶解した。更にこの糖鎖の熱安定性は、その直線性により溶液やバルク中で合成した糖鎖よりも高い熱安定性を示した。通常、糖鎖の重合において、得られる糖鎖の構造を制御することは難しく、本法の新しい糖鎖の構造制御法としての有用であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究全体の構想は、まず1次元のナノ細孔を持つ多孔性金属錯体を用いて糖鎖の一次構造の制御を行うことに始まり、ゴールは2、3次元のナノ細孔を持つ多孔性金属錯体を利用し、その次元性を反映した糖鎖シートや多孔性糖鎖材料などを合成することにある。当初は多孔性金属錯体や合成ルートの選定に時間を要すると考えており、本申請の期間内では、研究の基幹となる細孔内での糖鎖合成の方法の確立することを目標としていた。具体的には一次元細孔内で多糖を合成し、その構造を明らかにすることを目標としていた。しかし、幸いにも酸耐性の多孔性金属錯体と無水糖の開環重合という組み合わせにて多糖が合成でき、更に構造も制御可能であった。そのため、現在は3次元のナノ細孔を持つ多孔性金属錯体を利用した多孔性糖鎖材料の合成に着手している。更にその中で糖鎖の形成を確認することが出来ており、当初の予想を上回るペースで研究が進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
3次元のナノ細孔を持つ多孔性金属錯体を利用した多孔性糖鎖材料の合成を行う。多孔性材料はその構造的特徴から様々な分野で注目されている材料である。例えば、その広い比表面積により多量の分子を吸着することが可能なため、吸着剤に応用されている。その細孔内に充填された分子は、バルクでは見られない結晶構造を取ることがあり、これにより疎水性薬剤を細孔内に導入することで溶解度や溶解速度が向上することが報告されている。経口薬剤において、疎水性薬剤はその溶解速度の遅さから腸内で完全に溶解・吸収されないうちに排出されてしまうため、生理活性の低さが問題視されている。これらの特徴から、近年、多孔性材料を経口固形製剤として応用する研究が盛んに行われている。しかしながら、ほとんどの多孔性材料は、ゼオライト、メソポーラスシリカ、多孔性配位高分子(PCP)などの無機材料であり、これらは生体由来の分子ではないために、体内に取り込む材料としての安全性に疑問が残る。安全性の高い生体由来材料としては、糖鎖が広く用いられており、その毒性の低さから食品や薬剤への添加物として使用されている。故にこれら材料の特徴を併せ持つ、多孔性糖鎖材料は薬剤キャリアとして有用であると考え、その合成を行う。
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Causes of Carryover |
研究の進行が申請者自身の想像より順調に進行しているため、実験を進行するために必要と考えていた機器(真空ポンプ、オイルバス、スターラー等の物品費)の購入が必要となくなり、物品費を抑えられたため、想定よりも低費用で実験を行うことが出来た。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
三次元の細孔を持つ多孔性金属錯体を用いた多孔性糖鎖材料の合成を行う。糖鎖は生体適合性が高く、更に生分解性も有しているため、薬剤への応用を目指す予定である。薬剤分子は試薬としては高価なものが多く(ex.ドキソルビシン 25mg/25,000円)先年の抑えられた費用をこちらにまわす予定である。
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