2015 Fiscal Year Research-status Report
新規修飾核酸による核酸四重鎖形成の制御と遺伝子発現の化学的制御技術の開発
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15K17888
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
藤井 大雅 甲南大学, 先端生命工学研究所, 助教 (40735338)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 四重鎖 / 修飾核酸 / 遺伝子発現制御 / 分子間構造形成 / 熱力学的安定性 / 酸解離定数 / 水素結合 / ループ塩基 |
Outline of Annual Research Achievements |
核酸の標準構造は二重鎖構造であるが、機能を果たす上では、三重鎖や四重鎖といった非標準構造の形成が重要なことが近年示されている。特に、四重鎖などの非標準構造による遺伝子発現過程の制御などの報告が相次ぎ、種々の疾患発症と核酸構造の関連が議論され始めている。本研究では、任意の遺伝子に対してのみ分子間四重鎖を形成させる修飾オリゴ核酸を開発し、それを用いた人為的な遺伝子発現の制御技術の構築を目指した。 実施計画では、本年度は標的核酸と特異的に四重鎖を形成できる修飾オリゴ核酸の創製の研究を中心に行う予定であった。そこでまず、グアニンで構成される四重鎖(G四重鎖)において、修飾核酸としてキサントシン(X)と8-オキソグアニン(O)を含む分子内人工G四重鎖を構築し、その安定性を評価した。修飾塩基を含むG四重鎖では、XとOがG四重鎖内で適切な塩基対を形成できる配列のみ安定であり、それ以外の場合ではG四重鎖は著しく不安定化した。この結果より、XとOの配列を適切に設計すれば、狙った配列のみ分子間人工四重鎖が形成することが期待される(論文発表なし)。 次に、シトシンCで構成される四重鎖(C四重鎖)において、ループの塩基配列が及ぼすその熱安定性への影響を解析した。C四重鎖は、これまで酸性条件でしか安定に形成されないとされていた。しかし、近年ループの効果により中性条件でも安定な配列があることが分かりつつある。本研究の解析の結果、向い合うループ間の相互作用が重要であり、特に四重鎖の最近接塩基の組合せがチミン-チミンとグアニン-グアニンの場合に最も安定であることを見出した。この知見は、今後の研究で人工C四重鎖のループ配列の設計に役立つだけでなく、生体内で重要な役割を持つ配列の推測にも役立つことが期待される(Phys. Chem. Chem. Phys., 17, 16719-16722(2015))。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、新規修飾核酸により分子間四重鎖形成を制御することで遺伝子発現の化学的制御技術を構築することを目的としている。そのために、(1)標的核酸に四重鎖を分子間特異的に形成させる人工四重鎖を“創製”し、(2)開発した人工四重鎖を活用して遺伝子発現反応を人為的に“制御”することを試みる。本年度は、上記(1)に対応する人工のG四重鎖とC四重鎖を“創製”する研究を中心に行った。 まずG四重鎖については、キサントシン(X)と8-オキソグアニン(O)を修飾塩基として四重鎖内に導入することで、人工分子内四重鎖を構築した。これらXとOは四重鎖内でフーグスティーン塩基対を形成し、導入した修飾塩基の配列のみでG四重鎖のトポロジーを制御できることを見出した。今後、この配列特異性を利用することで、標的核酸との分子間特異的な人工四重鎖形成能を評価し、それを利用した遺伝子発現反応の制御が可能だと考えられる。 C四重鎖については、ループ塩基配列が及ぼす熱安定性への影響を解析することで、ループ間の塩基間で形成される動的な非ワトソン・クリック塩基対が四重鎖を安定化することを見出した。現在のところ、C四重鎖形成により遺伝子発現反応が変異した例が極めて少ないため、見出した安定なループ塩基配列の知見を基に天然の配列による安定な分子間C四重鎖の構築とその構造形成の遺伝子発現への影響の解析を推し進めている。一方、同時に人工C四重鎖構築のため修飾塩基の合成も進めており、これら修飾塩基を利用した中性条件で安定な分子間人工四重鎖が構築できると考えられる。 以上の研究成果ならびに進捗度合いから、研究課題の達成に向けて順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究で開発したG四重鎖内で機能する修飾塩基対を用いて、標的核酸との分子間特異的な四重鎖の形成とそれを利用した遺伝子発現反応の制御に向けた基盤が整った。そこで、ガンなどの重篤な疾患に関連する遺伝子のうちG四重鎖形成配列を持たないものを標的として、修飾オリゴ核酸と標的核酸との分子間G四重鎖形成の解析と転写反応の制御を試みる。その際、比較として用いる天然オリゴ核酸同士ではG四重鎖が形成するのに対して、修飾オリゴ核酸同士ではG四重鎖が形成しないことを確かめる。また分子間で形成されるG四重鎖の場合でも導入した修飾塩基の配列のみでトポロジーが制御できるか調べる。その後、このトポロジーの違いによる転写反応への影響を解析し、それを応用した特定の溶液環境でのみ標的特異的に転写反応を阻害する修飾オリゴ核酸を開発する。 またC四重鎖については、本年度の研究で見出した安定なループ配列を基に、天然塩基で構成される安定な分子間C四重鎖の構築とその構造形成の遺伝子発現への影響の解析を完了させる。同時に、合理的な修飾によりシトシンの酸解離定数(pKa)を増加させ、中性条件で安定な人工C四重鎖の構築を行う。合理的な設計として、5位に電子供与基を導入したシトシンを複数種合成して、C四重鎖を最も安定化させる修飾シトシンを見出す。そして、天然配列で得た知見と合わせて、中性条件で標的特異的に分子間C四重鎖形成し、且つ遺伝子発現反応を制御できる修飾オリゴ核酸を設計する。これらの修飾オリゴ核酸を用いて、転写反応の配列特異的な抑制へと応用する。 最終的に、G四重鎖を誘起する修飾オリゴ核酸とC四重鎖を誘起する修飾オリゴ核酸を組み合わせて、標的二重鎖に対するインベージョンへと応用する。
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Causes of Carryover |
申請した予算が減額になり、さらに設備備品として計上していたHPLC用フラクションコレクター一式(CHF122SC)の金額がソフトウェアのアップデートに伴い専用PCを追加購入する必要が生じた。そのため、それらの購入で予算の大半を使用してしまった。結果として、計上していた試薬消耗品(DNA合成試薬など)や学会旅費へ使用できるだけの金額が残らなかった。そのため、次年度の予算と合わせて有効的に使用したほうがよいと考え、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
申請した予算からの減額分を考慮したうえで、当初計上していた試薬消耗品や分光光度計用セル、研究成果投稿料などを計画に従い使用する。一方、学会発表による旅費での使用を控える。特に次年度は新たな修飾塩基の合成といった人工四重鎖を“創製”する研究だけでなく、遺伝子発現反応を人為的に“制御”する研究を実施する必要がある。そのため、転写試薬などの比較的高額な酵素試薬を購入する必要があるため、全体の予算に対する消耗品の割合を増やす予定である。
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