2016 Fiscal Year Research-status Report
水素吸蔵によるシリコンの転位移動度向上と低侵襲性延性マイクロニードルの開発
Project/Area Number |
15K17937
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
泉 隼人 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90578337)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | シリコン / 水素 / 塑性変形 / MEMS / 欠陥 / 反応性イオンエッチング |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、初年度に実施した単結晶シリコンへの水素注入方法の結果に基づき、注入した水素がシリコンの塑性変形に及ぼす効果について評価した。またMEMSプロセスでは反応性イオンエッチング(RIE)により構造体の表面へ欠陥が導入されるため、RIE処理で導入した欠陥と水素がシリコンの塑性変形に及ぼす影響についても評価した。RIE(ON/OFF)と水素注入(ON/OFF)の効果を検証するための試料(4種類、ON/OFFは処理/未処理を意味)を準備し、ナノインデンテーション試験により押込み深さを変えて計測を実施し、以下の研究成果を得た。 (1) 4種類の試料に対して押し込み試験を実施した結果、RIE(ON)と水素注入(ON)の試料のみ、未処理の試料に比べて押し込み深さが増加する傾向が得られた。またRIE(ON)と水素注入(ON)の試料の押込み量の変化は、深い押込み試験に比べて浅い押込み試験の方が相対的に大きくなることを確認した。これより、シリコンの表面近傍は、欠陥と水素の相互作用によって塑性変形しやすくなり、バルクの機械特性とは異なる性質であることがわかった。 (2) RIE(ON)と水素注入(ON)の試料を500℃で熱処理して欠陥をアニールアウトさせ、さらに押込み試験を行い、シリコンの塑性変形挙動が未処理試料のものへ変化することを確認した。これにより、(1)の成果の裏付け(欠陥と水素の相互作用がシリコンの塑性変形にとって重要)となる実験結果を得た。 (3) TOF-SIMSにより、RIE(ON/OFF)の試料に対して水素注入による水素の深さ方向を分析し、両試料ともに表面から10nm以下の領域で局部的に水素が偏析した分布をもつことを確認した。またRIE(ON)の試料は、RIE(OFF)と比べてより表面近傍に水素が存在した分布であり、表面の欠陥に水素が補足されたことを示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では、シリコンの塑性変形を促進させる要素として水素のみに着目していたが、水素と結晶欠陥との相互作用がシリコンの塑性変形にとって最も効果的であることを本研究によって得た。反応性イオンエッチングによって発生する欠陥の種類や欠陥の存在状態に関して透過電子顕微鏡観察解析等が必要であると考えられるが、最終年度の目標として掲げたダクタイルシリコンニードルの設計・開発にとって重要な指針と実験結果が得られており、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、水素と結晶欠陥の相互作用を活かしてシリコンの塑性変形を制御し、これをシリコンニードルの座屈に対する耐久性の向上へ応用することを試みる。そこで機械特性評価の対象を表面からシリコンニードルを想定したナノ・マイクロピラー構造体へ変更して実験に取り組む。具体的にはシリコンウエハからナノ・マイクロピラー構造体をMEMS技術により作製して、これに水素と結晶欠陥を導入し、圧縮試験によって降伏強度の評価を行う。また反応性イオンエッチングによって発生した結晶欠陥や圧縮試験によるすべり変形状態を透過電子顕微鏡観察することで、結晶学的な観点から評価する。これにより、ダクタイルシリコンニードルの実現を目指す。
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