2015 Fiscal Year Research-status Report
転位の第一原理計算に基づく鉄鋼材料の固溶強化メカニズムの解明
Project/Area Number |
15K17939
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
譯田 真人 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (00550203)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 転位 / 第一原理計算 / 固溶強化 / 鉄 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄鋼材料の固溶強化を第一原理計算に基づき予測する枠組みの基礎を構築した.まず電子論に基づく第一原理計算を用いて,鉄鋼材料の塑性変形の主要な素過程であるらせん転位と鉄鋼材料でよく用いられる添加元素との相互作用を評価した.この相互作用エネルギーを用いることで,らせん転位がキンクメカニズムで移動する際のエネルギー障壁を見積もることが可能である.さらには,これらのエネルギー障壁を用いて,実験と同じ時間スケールでの一本のらせん転位の複雑なダイナミクスを評価する確率論に基づく粗視化モデルを構築した.この粗視化モデルでは,一本のらせん転位を単位長さの線分の集合としてみなし,転位の運動がキンク対の形成とそれに続くキンク移動によって生じるとする.そして任意の添加元素濃度下でのキンク対形成とキンク移動のエネルギー障壁を確率論に基づき数理モデル化し,エネルギー障壁を用いた熱活性化式でキンク対の形成とキンク移動の頻度を定式化した.そのうえで確率論に基づきキンク対の形成と移動を発生させることで,任意の温度,応力状態,添加元素濃度下でのらせん転位運動を評価する.らせん転位が平面上を2次元的に運動するモデルの構築と検証を行い,さらに複雑な転位ダイナミクスを扱う3次元モデルについて基礎モデルを構築した.任意のひずみ速度下での降伏応力はらせん転位の速度から評価することが可能であり,このモデルを用いることで添加元素が降伏応力に与える影響を予測することができる.以上の研究課題遂行により,第一原理計算より得られた電子論的知見から鉄中のらせん転位の速度さらには降伏応力を予測する枠組みの基礎を構築した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一原理計算に基づき鉄中のらせん転位と添加元素の相互作用を評価することができた.またこの相互作用から任意の添加元素濃度でのらせん転位の移動のエネルギー障壁を確率論に基づき評価する数理モデルを構築した.さらにはこのエネルギー障壁かららせん転位の長時間ダイナミクスを扱うことができる粗視化モデルについて構築,検証することができた.以上の研究課題遂行により,第一原理計算に基づき鉄鋼材料の固溶強化を評価する理論的枠組みの基礎を構築できたことから,研究はおおむね順調に進展していると考える.
|
Strategy for Future Research Activity |
構築したらせん転位のダイナミクスを扱う粗視化モデルを発展させ,すべり面を考慮したらせん転位の複雑な3次元運動と転位形状の時間発展を首尾よく評価する数理モデルを構築する.これによって転位の速度と転位線上の欠陥の生成を電子論に基づき評価し,これらの複雑な事象を考慮したうえで固溶強化を予測する数理モデルへと発展させる.そのうえで,各添加元素が固溶強化に与える影響を,温度,ひずみ速度,すべり面ごとに系統的に評価し,添加元素による固溶強化を電子・原子スケール,さらにはそれよりも大きな空間スケールでのらせん転位のダイナミクスから調査する.
|