2016 Fiscal Year Research-status Report
転位の第一原理計算に基づく鉄鋼材料の固溶強化メカニズムの解明
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15K17939
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
譯田 真人 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (00550203)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 転位 / 第一原理計算 / 固溶強化 / 鉄 / 時間粗視化モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は平成27年度で対象としなかった添加元素についても研究を実施した.具体的には鉄中のらせん転位と格子間に侵入型で存在する炭素原子との相互作用について第一原理計算を行った.炭素は熱により鉄中で拡散運動することから,炭素拡散の影響を考慮し,相互作用エネルギーから炭素影響下でのらせん転位の速度,さらには巨視的な降伏応力を求める数理モデルについて検討した.また複数の元素が同時に存在する場合についても第一原理計算に基づき解析を行った.さらには平成27年度で基礎的な枠組みを構築した,らせん転位ダイナミクスの時間粗視化モデルを発展させ,それを用いた具体的な解析を実施した.この枠組みでは,鉄中のらせん転位の各すべり面での運動に対する添加元素の影響を評価することが可能であり,実際に添加元素が存在することで転位のすべり面ごとの易動度に異方性が生じる可能性が明らかとなった.この時間粗視化モデルから得られた転位のすべり面の知見を用いて,複数の転位間相互作用に基づき単結晶金属の巨視的な力学応答を評価するメゾスケール解析も同時に実施した.これらの解析によって,添加元素が鉄中の個々のらせん転位運動に与える影響の知見が電子・原子論から得られ,さらにこの知見を基に鉄鋼材料の巨視的な力学応答に対する添加元素の影響を評価する枠組みの基礎を構築することができた.また添加元素と転位との相互作用を系統的に評価することで,相互作用の起源についての知見も得た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電子論的計算を用いて,鉄中のらせん転位と侵入型の炭素を含めた添加元素との相互作用を系統的に解析することができた.これにより相互作用の起源に関する重要な知見についても得ることができた.さらに複数の添加元素が同時に存在する場合についての添加元素の影響を検討することができた.また電子・原子論から得られた知見を基に,らせん転位の長時間ダイナミクスを扱うモデル解析も実施し,転位のすべり面ごとの易動度に対する添加元素の影響を評価した.これは鉄鋼材料の巨視的な力学特性を転位間相互作用に基づき議論する基礎的なデータとなる.実際に転位のすべり面選択に対する添加元素の影響を考慮した複数の転位ダイナミクスのメゾ力学解析を実施し,転位のすべり面ごとの易動度が転位間相互作用,さらには巨視的な力学特性に影響を与えることが,マルチスケールモデリングの枠組みによって得られた.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題はおおむね順調に進展しており,第一原理計算に基づき固溶強化メカニズムを明らかにするという本研究課題の目的に対して,既に多くの知見を得ることができている.また本研究課題の成果をより精緻なものとするために,複数の元素が同時に存在する場合についても検討を実施している.さらには第一原理計算から得られた知見を基に巨視的な力学応答を評価するためマルチスケールでの転位ダイナミクスを解析する基礎的枠組みについても構築することができた.今後は構築した枠組みをより実用に資するものにするとともに,得られた成果を整理して,学会で対外発表を行うなど,本研究課題の推進によって得られた成果を社会に還元する.
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Causes of Carryover |
平成28年度に,平成27年度で対象としなかった鉄鋼材料の重要な添加元素が鉄の強度に与える影響について詳細な検討を実施し,その成果を学会等で対外発表する予定であった.しかしながら,研究をより精緻なものにするために,複数の元素が同時に存在する場合の評価も実施することにし,追加の解析・評価を行った.このため成果の対外発表を平成29年度に行うこととし,当該助成金は主としてそのために必要となる経費に充てる.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由のため,本研究課題の推進によって得られた成果について,対外発表を平成29年度に行うこととした.平成29年度は,当該助成金を主として研究成果の対外発表のための旅費,学会参加費,あるいは学術論文の校閲費などに使用する予定である.
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