2016 Fiscal Year Research-status Report
沸騰熱伝達による高効率除熱実現に向けた自己浸濡性流体の機構解明
Project/Area Number |
15K17990
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
金子 敏宏 東京理科大学, 理工学部機械工学科, 助教 (00711540)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 表面張力 / 気液界面 / 1-ブタノール水溶液 / 自己浸濡性流体 / 分子動力学 / 化学物理 / 計算物理 / 熱工学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では沸騰熱伝達において高密度な熱流束を実現する作動流体として期待されている自己浸濡性流体(温度上昇に伴い表面張力が上昇する流体)に注目し,この性質が発現する分子レベルの機構を明らかにすることを目的として研究を進めている.具体的には,典型的な自己浸濡性流体であるブタノール水溶液の全原子分子動力学シミュレーションの実施と界面の熱力学に基く表面張力温度依存性の理論研究を遂行する.平成28年度(2年目)は情報収集を目的として,国内学会や海外研究機関との打ち合わせに参加した.これらを通じて得た知見と平成27年度(1年目)に実施した予備シミュレーションの結果をもとにして,ブタノール水溶液の全原子分子動力学シミュレーションを実施した.表面張力と表面過剰量を計算し,その温度依存性を理論式と比較しながら考察した.計算機周辺部品を購入して解析のための計算機環境を整備した上で,ブタノール水溶液の全原子分子動力学シミュレーションの結果の一部を解析した.解析結果をもとにして自己浸濡性を説明する仮説を提案し,それらを第30回分子シミュレーション討論会(大阪)にて発表している.平成29年度(3年目)は引き続きブタノール水溶液の全原子分子動力学シミュレーションの結果を解析し,仮説の検証を実施する.とくに水溶液系中のブタノール分子の密度分布や分子運動の温度依存性を詳細に解析することで,温度上昇に伴い表面張力が上昇する分子レベルの原因を特定し,自己浸濡性流体が発現する分子レベルの機構解明を目指して研究する予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の平成28年度(2年目)の研究予定は,ブタノール水溶液の気液2相平衡系の分子動力学シミュレーションを実施し,考察に必要な計算データを取得することであった.以下に具体的に示すように,これら研究予定はほぼ達成できており,研究はおおむね順調に進展している.分子動力学シミュレーションソフトである Gromacs 4.6.7 を使用し,TIP4P/2005力場でモデル化した水分子とOPLS-AA力場でモデル化したアルコール分子からなる薄液膜を周期境界条件をかけた計算系に形成して気液共存状態に保つことで,コンピュータ上に気液界面を再現できた.まず,純粋な水および純粋な1-ブタノールの系で分子動力学シミュレーションを実施し,飽和液密度や表面張力などの気液共存状態における諸熱力学量が正しく計算できていることを確認した.また,1-プロパノール水溶液,1-ブタノール水溶液の系で表面張力の計算に成功し,得られた表面張力温度依存性が実験結果を部分的に再現していることを確認した.適切なシミュレーションを実施する上で,国内学会や海外研究機関との打ち合わせで得た知見が不可欠であった.以上のように分子動力学シミュレーションがおおむね終了し,解析のために必要な座標データを取得した.平成29年度(3年目)に予定している座標データの解析と自己浸濡性流体が発現する分子レベルの機構解明に向けて,必要なデータをとりそろえることができたため,当初の予定どおり研究はおおむね順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度(1年目)と平成28年度(2年目)に実施した計算研究と理論研究をふまえると,自己浸濡性が発現するためには,表面エントロピーの温度依存性が寄与している,もしくは,水溶液内の溶質の化学ポテンシャルの温度依存性が寄与している,という2種類の熱力学的な機構が考えられる.平成29年度(3年目)はこれまでに実施した分子動力学シミュレーションの結果を解析することで,どちらの機構が支配的になっているか検証し,自己浸濡性流体が発現する分子レベルの機構解明に取り組んでいく.まず,気液界面での1-ブタノール分子の挙動に注目した解析を行なう.気液界面における1-ブタノール分子の2次元的なふるまいを様々な温度で観察することで,気液界面での1-ブタノール分子の挙動と表面張力変化の関係性を考察する.つぎに,水溶液系中のブタノール分子の密度分布や分子運動の温度依存性を研究し,水溶液内の溶質の化学ポテンシャルの温度依存性を予測する.さらに,自己浸濡性が発現しない1-プロパノール水溶液の結果と比較し,溶質の違いが表面張力温度依存性に与える影響を明かにする.以上のように,分子動力学シミュレーションで得られた全原子座標データ時系列を解析し,熱力学に基いた考察をすることで自己浸濡性が発現する分子レベルの機構解明を目指した研究を進めていく.研究の遂行と並行して,研究成果発表のための学会参加や論文執筆と査読付き学術雑誌への投稿を予定している.
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Causes of Carryover |
予定していた国際会議に出席できなかったため未使用金が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は旅費に計上し,研究遂行に必要な旅費として使用する予定である.
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